歌麿をめぐる五人の女

1946年作品
監督 溝口健二 出演 坂東簑助、田中絹代
(あらすじ)
歌麿(坂東簑助)は当代きっての浮世絵師。彼は浅草観音前の水茶屋難波屋の娘おきた(田中絹代)をモデルに錦絵に描き、それによって彼女は江戸中の評判になる。その頃、紙問屋仙香堂の息子庄三郎が花魁の多賀袖と駈落ちして行方不明になるという事件が発生し、庄三郎と恋仲であると信じていたおきたはショックを受ける….


週に一度は溝口作品ということで、今回も依田義賢とコンビを組んだこの作品を鑑賞。

題名からだと歌麿の女性遍歴を描いた作品のように思われるが、実際は全然違う。確かに多くの女性が登場し、そのうちの何人かは歌麿の絵のモデルにもなるんだけれど、彼が彼女等に対して恋愛感情を抱いていたかどうかについては作品上でほとんど触れられておらず、ここで描かれる歌麿のイメージはストイックな芸術家あるいは職人であって、女ったらしでは全くない。

逆に、女性たちのほうは歌麿とは全然別の2人の男を巡っての争奪戦を繰り広げ、こっちの方が本作のメインテーマになるんだけれど、溝口&依田作品にしては珍しく脚本が整理されていない印象が強く、各エピソードはバラバラ。そんな中で歌麿は主役はおろか狂言廻しにもなり得ておらず、彼の存在理由は最後まで理解できなかった。

途中、某殿様が腰元達を裸(=上半身サラシ巻き+腰巻)にして水中で鯉の捕みどり競争をやらせるというシーンなんかも出てくるんだけれど、このあたりも相当に意味不明。まあ、観客サービスなんだろうとは思うけれど、これまで見てきた溝口作品のイメージからするとちょっと異質な感じが強い。

個々のエピソードには面白いものも少なくなく、また、歌麿のモデルとして有名なおきたに扮した田中絹代の演技は俺がこれまでに見た彼女の演技の中では(=といっても、大して見ている訳じゃないけど)最も好感が持てたところではあるが、正直、他の溝口作品に比べるとこの作品の出来はちょっと落ちるね。

ということで、他にお蘭&雪江という二人の女性が関わる別の三角関係も出てくるんで、おきた&多賀袖に彼女等を加えた主要な女性登場人物はこれで4人。とすると、題名に出てくる“五人の女”の5番目はいったい誰なんだろう。まさか、“化粧マワシが似合う”ってからかわれていたおしんじゃないよね?