神道の成立

高取正男という民俗学者が書いた我が国の神道に関する“名著”。

著者自身による「あとがき」を読むと分かるのだが、本書は4つの別々の論文がベースになっており、一冊の本にまとめるに当たって「大幅に訂正し、加筆した」とはいうものの、4つの章ごとの独立性はそのまま引き継がれてしまっているような印象。

そのため、第一章で問題を提起し、第二、第三章での考察を経て、第四章で結論が述べられる、という一般的な構成になっていないので、読んでいるうちに「神道の成立」というテーマとの関係を見失ってしまうことがしばしば起こり、300ページにも満たない本でありながら、読み進めるのは結構大変だった。

しかも、取り上げられているエピソードは多種多彩であり、意表を突かれるようなものも少なくないことから、テーマを忘れて読み入ってしまうことしきり。最後まできちんと読めば著者の主張は良く分かるので、パラパラと読み返してみればそのエピソードが取り上げられた理由も理解できるのだが、まあ、本格的に読み返してみるのはしばらく後で良いだろう。

興味深かったのは神道の“世俗性”に関する指摘であり、「国家とか社会的政治的運動体が容易に神的存在」になってしまうことに対する危惧は、当然、天皇を現人神に仕立て上げてしまった明治期以降の失敗を意識してのこと。現在、取りざたされている天皇生前退位に関する議論を聞いていても、一人の老人の処遇に関する問題としてはあまりにも大袈裟であり、やはり神的存在としてのイメージを残しておきたいという思惑が今でも働いているのだろう。

ということで、民俗学に関しては、柳田国男の本を毎日ちびちび読んでみるというのが俺の老後の楽しみの一つであり、筑摩書房から出版された彼の全集は数十年前に一揃い購入済み。先日、還暦の誕生日も済ませたことだし、もうそろそろ押入れから取り出してきても良い頃なのかもしれません。