紙の月

2014年作品
監督 吉田大八 出演 宮沢りえ池松壮亮
(あらすじ)
梅澤梨花宮沢りえ)はエリート会社員の夫と2人暮らし。どこか心の通じ合わない夫との家庭生活には空しさを覚えていたが、勤務先の銀行ではパートから契約社員に格上げになり、外回りを任されるようになったことで自分の仕事にやり甲斐を感じ始めていた。そんなある日、職場からの帰宅途中に大学生の青年から声を掛けられるが、それは得意客の孫である平林光太(池松壮亮)だった…


桐島、部活やめるってよ(2012年)」の吉田大八監督が宮沢りえを主演に起用した作品。

たそがれ清兵衛(2002年)」や「父と暮せば(2004年)」が好きだったので、同じ“宮沢りえつながり”ということで、本作を鑑賞。原作は角田光代という人の書いた小説であり、一足先に原田知世の主演でTVドラマ化もされているらしいのだが、ともに読んだことも、見たこともない。

さて、女子行員が男に貢ぐ金欲しさのために銀行の金を横領するというネタは“よくある話”であり、最早何の新鮮味も感じられないのだが、驚いたことに本作のストーリーのほぼ9割はこの手垢まみれのネタによって占められている。

確かに、40歳を過ぎたからといっても宮沢りえは十分に美人であり、地味なおばさんが若者との交際を通じて華麗な悪女に変身していく様を眺めているのは決して不快なことではない。また、めったに見せてくれない(?)濡れ場にも果敢に挑戦してくれているのだが、まあ、いずれにしてもそれだけで満足しろっていうのはちょっと無理。

そして、残りの1割で描かれているのは“リアリティの感じられないものを壊すことに罪悪感はない”というヒロインのユニークな倫理観であり、父親の財布に入っていた5万円は、普通に考えれば父親の貴重な労働の対価なんだろうが、その労働の部分が見えていない娘にとってはアブク銭と同じ。

それと同様、顧客の老人たちが溜め込んだ大金も愛のない夫婦関係も彼女にとっては所詮“紙の月”であり、それを盗んだり、壊したりしても罪の意識は感じない。そんな彼女は本作のラストで見事な脱走劇を見せてくれるのだが、映画的にはいくらなんでも遅すぎだろう。

ということで、これは俺の勘なのだが、本作は、原作の小説や先に製作されたTVドラマとの差別化を図ろうとするあまり、ちょっぴりバランスがおかしくなってしまったような気がする。それならいっそのこと、世界を股に掛ける女盗賊“夜紙月(ルナ)”の大活躍を見せて欲しかったところです。