歴史入門

フェルナン・ブローデルが1976年に行った米国ジョンズ・ホプキンス大学での講演を記録したもの。

本当は同じ著者による「地中海」の方を読んでみたかったのだが、全5巻に及ぶ大作をいきなり読破するのはなかなか大変そうということで、とりあえず、お手軽そうなタイトルを持つ本書を“ブローデル入門”のつもりで読んでみることにした。

そんな訳で、中身も良く調べないで購入してしまったのだが、本書は、彼のもう一つの代表作である「物質文明・経済・資本主義」の内容を講演会向けにコンパクトにまとめたものであり、“歴史入門”というタイトルが相応しいかについては若干の疑問が残るものの、“ブローデル入門”としては正にうってつけの内容だった。

何と言っても興味深いのは、歴史を“物質生活、市場経済、資本主義”の三層から解き明かそうとする独特の方法論であり、市場経済の必然的帰結であるかのように思われていた資本主義を市場経済から区別して考えようとするところ。そもそも資本主義は市場経済の健全性を踏みにじろうとしたところから生まれたという鋭い指摘には、読んでいて久しぶりに興奮させられてしまった。

また、“世界=経済”という概念を使用することによって資本主義の独占性を明らかにしている点もお見事であり、長年心に引っ掛かっていた貿易の胡散臭さの正体みたいなものがようやくストンと胸に落ちた感じ。まあ、TPPを推進しようとしている人々にとっては、貿易の不平等さなんか当然のことなんだろうけどね。

ということで、ブローデル歴史学を理解する上では非常に役に立つ本であり、ページ数が少ないため内容を忘れてしまってもすぐに読み返せるところも有り難い。問題は、次に「地中海」と「物質文明・経済・資本主義」のどちらを読もうかという点であるが、う〜ん、やっぱり初志貫徹で前者にするかなあ。