マダム・マロリーと魔法のスパイス

2014年作品
監督 ラッセ・ハルストレム 出演 ヘレン・ミレン、マニシュ・ダヤル
(あらすじ)
政治のゴタゴタに巻き込まれてインドを追われたカダム家の人々は、インド料理のレストランを開くのに適した土地を探してヨーロッパ大陸中を旅していた。そんなとき、たまたま通りかかった南フランスのある地方都市で格好の中古物件を見つけるが、その建物の通りを挟んだ真向かいにあるのは、ミシュラン一つ星を誇るマダム・マロリー(ヘレン・ミレン)の高級フレンチ・レストランだった….


作品をコンスタントに発表し続けるラッセ・ハルストレムの新作コメディ映画。

カダム家の家長である“パパ”は、子ども達が止めるのも聞かずにその場所でインド料理のレストランを開くことを強引に決めてしまい、前半は、このパパとヘレン・ミレン扮するマダム・マロリーとによる営業妨害スレスレの攻防戦(?)が観客の笑いを誘う。

しかし、部下のシェフが勝手にやらかした人種差別的な嫌がらせについて、マダム・マロリーが素直に非を認めたことが契機となって両者の仲は急速に改善。後半は、彼女のレストランでフランス料理の修業をすることになったカダム家の次男ハッサン(マニシュ・ダヤル)の料理人、さらには人間としての成長がメインテーマになり、最高のハッピーエンドで幕を閉じる。

まあ、非常に後味の良いストーリーであり、南フランスが舞台となった映像も綺麗ということで、なかなか楽しく拝見できるのだが、どうしても“安易”という言葉が脳裏をよぎってしまうのがちょっとした問題。1946年生まれのラッセ・ハルストレムも70歳間近とはいえ、まだまだ老け込むような歳では無いだろう。

折角、移民の排斥運動という現在進行中の大きな社会問題を取り上げているのだから、そこのところをもっと深く掘り下げて欲しかったし、インド人の青年にフランス料理の神髄を伝えることに対するフランス側の心理的葛藤をきちんと描いていたら、イーストウッドの「グラン・トリノ(2008年)」にも通じる名作になっていたかもしれない。(?)

ということで、本作に対する最大の個人的不満は主演であるはずのヘレン・ミレンの出番が少なすぎるところ。パパ役のオム・プリのパワフルな演技に気圧されてしまった訳では無いだろうが、彼女のたどってきた人生に関する説明がごっそり抜け落ちているため、そのフランス料理に対する熱い想いのようなものがあまり伝わってこなかったような気がします。