セデック・バレ

2011年作品
監督 ウェイ・ダーション 出演 リン・チンタイ、マー・ジーシアン
(あらすじ)
台湾の先住民であるセデック族は、部族内での激しい抗争を繰り返しながらも、狩猟民族として自由な生活を送っていたが、1895年の下関条約により大日本帝国支配下に入ることに。それから35年、“日本人”としての文明的な生活を強いられてきた彼等は、セデック族の誇りを取り戻すため、マヘボ社の頭目モーナ・ルダオ(リン・チンタイ)をリーダーとして武力蜂起を企てる….


1930年10月に起きた大規模な対日抗争である“霧社事件”を題材にした台湾映画。

第一部「太陽旗」と第二部「虹の橋」から成る大作であり、総上映時間は4時間36分に及ぶのだが、その相当部分が、セデック族同士の内部抗争、セデック族による日本人の虐殺、そしてセデック族と日本軍との戦闘といったシーンの描写に費やされているため、全体的には壮大なスケールで描かれたアクション映画といった印象が強い。

しかし、本作の主人公であるモーナ・ルダオは、この対日抗争が敗北に終わることを最初から覚悟しているため、霧社公学校の運動会を襲撃して多くの日本人を虐殺しても決して喜びの表情を見せることはなく、一般のアクション映画のような高揚感は比較的希薄。このあたりも含めて、ザック・スナイダーの「300<スリーハンドレッド>(2007年)」の影響が強いのかもしれない。

まあ、一次的な観客である台湾の人々にとって、日本による同化政策の非道さは今さら言うまでも無いということなのか、そういった暴動の社会的背景に関する描写はかなり控えめになっており、“親日”か“反日”かということに対して異常に敏感になっている人々にとっても受け入れやすい内容になっている。

また、戦闘シーンにおいてセデック族の人々の勇猛さを強調しようとすればするほど、日本人の“被害者”的な側面が際立ってしまうというのが何とも皮肉なことであり、結果的にあまり“罪悪感”を覚えることなく鑑賞できてしまったのだが、果たしてこれで良かったのだろうか。

ということで、最後の方に、鎮圧部隊を指揮した鎌田少将によるセデック族を讃えるセリフが出てくるのだが、そこで“武士道”を引用しているのはどんなものだろう。まあ、確かに彼らしいセリフではあるのだが、それが作品全体の感想になってしまっては、孤高の士であるセデック族の皆さんに対して失礼になるような気がしました。