思想のドラマトゥルギー

林達夫久野収の二人による対談集。

内容はプラトンから歌舞伎まで多岐に渡っており、おそらく俺にはその10分の1も理解できていないと思うのだが、我が国の知性を代表するこの二人の対談は、(ただ文字を追っていくだけならば)とても読みやすい。

これは林の書く文章についても言えることであり、おそらくそれは彼の卓越した知性の賜物だろうと思っていたのだが、本書で彼が“レトリック”の重要性について力説しているのを読んでちょっぴり反省。理路整然とした思考が背景にあるのは間違いないが、それと同時に、読み手が理解しやすいように十分配慮してくれていたのだろう。

また、帰国子女の元祖みたいな林の生い立ちが話題になっている部分がとても面白く、それを知ることにより林に対する親近感も増してくる。しかし、俺より60年以上昔に生まれているにもかかわらず、“知的”という面では全く太刀打ちできないような羨ましい生活を送っており、これに関しては、正直、身分の差を感じてしまうところ。

ということで、対談の中では多くの本が紹介されているのだが、読んでいて痛感したのは、(例えば)プラトンを知りたいのなら、プラトンが書いた物を読まなければならないということ。他人が書いたプラトンの解説書を読んでいたのでは、(林のように)直接プラトンと相まみえることは出来ないような気がしました。