エル・トポ

1969年作品
監督 アレハンドロ・ホドロフスキー 出演 アレハンドロ・ホドロフスキー、マーラ・ロレンツォ
(あらすじ)
幼い息子を連れて砂漠をさすらうガンマンのエル・トポ(アレハンドロ・ホドロフスキー)。修道院のある村で乱暴狼藉の限りを尽くしていた“大佐”の一味を一人で片付けた彼は、そこの修道士に息子を預け、大佐に囚われていた女性マーラ(マーラ・ロレンツォ)と二人で旅を続けることになるが、彼女は、愛の証として、砂漠に住む4人の銃の達人を倒して最強のガンマンになることを要求する….


アレハンドロ・ホドロフスキー監督のカルト映画の傑作。

ストーリーは2部構成になっており、第一部は、4人の銃の達人との戦いを通し、ガンマンとして生きることの無意味さを思い知らされた主人公が人生に絶望し、銃を捨てて永い眠りにつくところで幕を閉じる。

正直、出てくる俳優のレベルは極めて低く、演出も編集も素人並み。4人の達人との戦いもほとんど出来の悪いコントのようにしか見えないのだが、メキシコの明るい日差しの下で繰り広げられる原色の残酷シーンのオンパレードはどこか美しく、人間の劣情を刺激するだけに止まらない不思議な魅力を有している。

第二部に突入するとストーリーはガラッと一変し、洞窟に閉じ込められた不具者たちから“生き仏”として崇められてきた主人公が、永い眠りから覚め、彼等を洞窟から解放するためのトンネルを通すのに悪戦苦闘する様子が描かれる。勿論、演出等が素人レベルなのはそれまでと同じなのだが、本作の究極のテーマが“愛”であることが分かるだけでなく、第一部で主人公が息子を捨てた行為が第二部の伏線になっていたことが明らかとなる。

そして、主人公の悲劇的な最期の後、ストーリーは成人した彼の息子に引き継がれ、この希望と絶望の物語が永遠に続くことを示唆して映画は幕を閉じる。正直、ストーリーはとても真面目でかつ感動的なのだが、それと演出等の稚拙さとのギャップが凄まじく、まあ、その辺りがカルト映画の傑作といわれる所以なのだろう。

ということで、アレハンドロ・ホドロフスキーに対しては、もう少し映画製作のテクニックを身に付けてから撮れば良かったのに、と文句の一つも付けたくなるところだが、その場合、本作の不思議な“味わい”が失われてしまう可能性も否定できない。アンリ・ルソーの絵画ではないが、“意余って力足らず”というのは、常に悪い訳ではないのかもしれません