新リア王

高村薫の福澤彰之シリーズ第2作目。本自体はかなり以前に購入し、そのまま本棚に寝かせてあったのだが、昨年末に著者の新作(=「冷血」)が出版されたというニュースを耳にして、慌てて読んでみた次第。

本作は「晴子情歌」の続編ということになるのだが、主役を務めるのは、前作では“悪役”のイメージが強かった代議士の福澤榮。最初はちょっと戸惑ったものの、読み進めていくうちに、この人物、少なくとも“政治とは何か?”という問題に関しては、全身全霊を込めて真剣に考え続けていたということが理解出来るようになり、次第に親近感みたいなものが湧いてくる。

まあ、結果的には、彼が政治家として行ってきたのは地元である青森県に対する利益誘導以外の何物でもなく、最後には原子力関連施設の誘致にまで手を出そうとするのだが、その動機は雇用の創出をはじめとする地元経済の振興であり、私腹を肥やそうとする意図は全く見えてこない。正直、相変わらずとらえどころのない福澤彰之より、ずっと感情移入しやすいキャラであった。

ということで、本書にもちょっとだけ出番がある合田雄一郎もそうなのだが、我が国の実際の政治家や警察官の中で、彼等のように政治や警察のあり方について深く思い悩んでいる誠実な人物って、いったいどれくらいいるのだろう。残念ながら、俺の知っている範囲内では、そう多くないような気がします。