1950年作品
監督 マルセル・カルネ 出演 ジェラール・フィリップ、シュザンヌ・クルーティエ
(あらすじ)
監獄に収容され、恋人に会えない悲しみに打ちひしがれていたミシェル(ジェラール・フィリップ)は、夢の中で“忘却の村”を訪れる。その村では、過去の記憶を失った人々が偽の思い出を弄ぶことによって自らの虚ろな気持ちを慰めており、ようやくめぐり会えた恋人のジュリエット(シュザンヌ・クルーティエ)も、ミシェルから楽しかったはずの二人の思い出を聞きたがる….
マルセル・カルネがジェラール・フィリップを起用して撮った幻想ロマン。
ジュリエットを含むその村の人々は、いわゆる長期記憶を保持することが出来ないようであり、その村で体験した出来事も1時間くらい経つとすっかり忘れてしまう。まあ、この設定をあまり徹底すると、物語自体が成り立たなくなってしまうため、色々と例外(というか矛盾点)はあるようなのだが、最初から夢の話だと分かっているので、見ていてあまり気にはならない。
ジュリエットに触手を伸ばす謎の領主の正体が、実は“青ひげ”だった判明する夢パートのオチも決まっているのだが、それに続く現実パートでの意表をつく急展開が非常に効果的であり、主人公が再び忘却の村へ戻っていくという予定調和的なラストにも十分な説得力を与えている。村の人たちが記憶を失っていたのは、悲しすぎる過去を思い出したくなかったからなんだね。
主演のジェラール・フィリップは、こういったロマンチックな役柄にピッタリな容姿を備えており、正にハマリ役。哀れなほどに素直な性格のジュリエットを好演しているシュザンヌ・クルーティエは、初めてお目にかかる女優さんだったが、本作の前にジュリアン・デュヴィヴィエの「神々の王国(1949年)」にも出演しているらしいので、今度そちらの方も見てみたい。
ということで、まあ、相当感傷的なストーリーであり、本作の公開後数年で力を増していくヌーヴェルヴァーグの人たちからは“陳腐”と切り捨てられてしまうかもしれないのだが、良く練られた脚本のみならず、映像、音楽ともに美しく、個人的には十分満足できる作品。最大の難点は、本作の幻想的なイメージを裏切るような即物的な邦題であり、いくら何でも“愛人”はないと思います。