夜ごとの美女

1952年作品
監督 ルネ・クレール 出演 ジェラール・フィリップ、マルティーヌ・キャロル
(あらすじ)
貧しい音楽教師のクロード(ジェラール・フィリップ)は、自ら作曲したオペラをオペラ座に送ったものの、採否について何の連絡もない。すっかり気落ちしてしまった彼が、唯一安らぎを得られるのは夢で訪れる古き良き時代だけということで、1900年の貴婦人エドメ(マルティーヌ・キャロル)や1830年アルジェリアの姫君、ルイ16世の時代の貴族令嬢等と正に夢のようなひと時を過ごしていたのだが….


ルネ・クレールジェラール・フィリップと組んだ3本の作品の中の一つ。

ジェラール・フィリップ主演ということで、もうちょっとロマンチックなストーリーを予想していたのだが、実際は何ともナンセンスな内容のコメディ映画。しかし、そこは流石の名匠ルネ・クレールであり、最初から最後までとても面白い。

特に、夢の中に出てくる謎の老人のキャラが秀逸であり、彼が“昔は良かった”と愚痴をこぼすたびにクロードの夢はどんどん過去の時代へと遡っていく。まあ、こういう人物はいつの時代にも少なからず存在するものであり、以前、TVの討論会のような番組で、30代から70代くらいまでの出演者が“自分たちが子供の頃は良かった”と異口同音に主張しているのを見て、呆れてしまったことがある。

本作では、時代を遡っていくにつれて、フランス革命に巻き込まれたり、ダルタニアンから闘いを挑まれたりした挙句、原始人や恐竜、果てにはノアの箱舟までが登場するというドタバタ喜劇にエスカレートしていくのだが、最後は進退窮まったクロードが自ら夢から醒めることを選択して、無事ハッピーエンド。結局、自分の生まれた時代が一番という、無難なオチとなっている。

ジェラール・フィリップは、本作と同じ年に公開された「花咲ける騎士道(1952年)」にも出演しており、この頃は役者としての幅をコメディ方面にも伸ばそうとしていたのかもしれない。女優陣の中では、アルジェリアのレイラ姫に扮したジーナ・ロロブリジータの美しさが目立っており、後向きではあるがヌード姿もチラッと披露してくれる。

ということで、ルネ・クレールの軽妙洒脱な演出ぶりはいつもながらお見事であり、90分足らずの間ではあるが、見る者をとても楽しい世界へと導いてくれる。残念ながら、現在の映画界でこういった才能を見出すのはちょっと難しくなっているのだが、まあ、“昔は良かった”と愚痴をこぼすのは止めにしておきましょう。