治癒神イエスの誕生

以前読んだ「聖書の起源」がなかなか面白かった山形孝夫の著作。

いくつかの論文や講演記録、対談等をまとめたものであり、少々まとまりには欠けるものの、同じような話を何回か繰り返して読まされることになるので、俺のような素人にはかえって頭に入り易いという利点もある。

さて、新約聖書にはイエスが病人を癒したという奇跡のエピソードが満載されている訳であるが、その多くは心身症的なヒステリー症状の改善と見ることが可能であり、まあ、“病は気から(の反対)”みたいなものなんだろうと思っていたのだが、著者はこの“癒す”という行為自体を“社会との関係性の回復”として捉えているのがとても興味深い。

すなわち、神に罰せられた者として社会から追放された病人の元へ出向き、彼を赦すことによって社会へ復帰させることが“癒す”ことの本質であり、必ずしも医学的な治療を意味するものではない故、アスクレピオス教団のように特別な医学的技術を有していなくても、病人を癒すことが可能になる訳である。

ということで、ハンセン病の患者が医学的な根拠もなしに社会から隔離されていたのはそう昔のことではなく、また、今でも“安全安心”というスローガンによって精神疾患を有する方々の社会との絆が絶たれるおそれがある訳であり、残念ながら依然として治癒神の存在は必要とされているのでしょう。