反文学論

1977年から78年にかけて「東京新聞」夕刊に連載された柄谷行人文芸時評

できるだけ小説とそれ以外のジャンルの本を交互に読もうと心掛けているのだが、たまたま後者の手持ちの在庫がなかった故、大昔に購入したまま二階の本棚の奥に積んであった本書を読んでみることにした。

本の奥付によると“1979年4月25日 初版第一刷発行”と書いてあるので、おおよそ今から30年前、就職して間もない頃に手に入れたらしいが、当然、購入動機は覚えていない。しかし、冒頭の「方法をめぐって」を読んでいたら、先日、やはり30年ぶりにその作品を読んだばかりの大江健三郎がいきなり批判されていたのでちょっとビックリ。まあ、当時、そのあたりに興味を持っていたのだろう。

文芸時評ということで、その頃に発表された小説(一部、評論や戯曲も含まれている。)が批評の対象になっている訳であるが、純文学系の作品が多いため、残念ながら俺が読んでいないものも多い。しかし、そのスマートな論理構成と流麗な文章のおかげで、知らない作品に対する批評も退屈することなく読めてしまえるのは大したものであり、本当にあっという間に読み終えてしまった。

ということで、この本の中で2か所ほど、「ものぐさ精神分析」で有名になった岸田秀氏のお名前が出てきたのが懐かしかった。そのシリーズは、確か「出がらし〜」まで読んだ覚えがあるのだが、お得意だった唯幻論は今でも健在なのでしょうか。