逡巡の燧ヶ岳

今日は、富士山に次ぐこの夏の目標の二番目である燧ヶ岳に行ってきた。

といっても、自宅から登山口のある福島県檜枝岐村までは結構時間がかかるので、昨日のうちに車で出発し、昨夜は御池の駐車場で車中泊。これで2回目なのでベッドメイクも慣れたものであり、怖いほど静かな環境の中でぐっすりと熟睡することが出来た。

午前4時30分に目覚ましをセットしておいたのだが、あたりはまだ真っ暗。5時頃から到着する車の音が次第に騒がしくなり、周囲もだんだんと明るくなってきたのだが、あたりには霧が立ち込めているようであり、残念ながらお天気はあまり良さそうではない。カセットコンロでお湯を沸かし、カップ麺とパンの朝食をとってから、午前6時ちょうどに出発。

駐車場の一番奥にある登山口の先には良く整備された登山道が続いているのだが、どんよりとした曇り空の下の山歩きはあまり楽しくはない。今日は、燧ヶ岳の頂上から見渡した尾瀬の風景を妻や娘に見せてあげようと、しっかりカメラも持参して来たのだが、この調子ではどうも無理っぽい。

単独行ということで、先を行く何組かの方々を追い越させていただきながら、6時32分に広沢田代に到着。ここは湿原の真ん中なんだけど、立ち込めた霧のせいで期待したような景色は望めない。お天気は依然として小雨混じりの状況であり、熊沢田代の手前あたりで休んでいた男性から“このまま登ろうか、引っ返そうか思案中”という話を聞き、俺もどうしようかと悩み始める。

7時5分に熊沢田代に到着するが、目指す燧ヶ岳は霧の中であり、雨脚も若干強まってきたような気がする。これでは帰路に予定していた長英新道も泥だらけの可能性が高く、先日、女峰山からの下山ルートで泥濘に手こずったことを思い出し、熊沢田代を抜ける寸前で遂に中止を決断。濡れてツルツル滑る木道を引き返すことにした。

ところが、引き返す途中、依然として山頂を目指す何組かの方々とすれ違うたびに先程の決断が早くも揺らぎ出す。しかも、気が付けば小雨もあがったようであり、とりあえず山頂まで行ってみようと思い直して再び方向転換。我ながら相当カッコ悪いが、先程すれ違った方々からの“さっき引き返して来た人ですよね”という質問に適当な言い訳をしながら再び追い越させていただき、7時19分に2度目の熊沢田代。ロスタイムは14分だった。

湿原を過ぎると、石がゴロゴロした涸れ沢のルートが続いており、木道のあるガレ場(7時56分)のところを通過して、8時9分に俎グラ(2,346m)へ到着。案の定、周囲は真っ白で全く眺望はないので、2人いた先客のうちのお一人からルート(=初めは岩だらけであるが、左端の方に歩きやすい道が付いている。)を教えて頂いて、8時25分、ようやく燧ヶ岳の最高地点である柴安グラ(2,356m)に辿り着いた。ロスが無ければ、駐車場から2時間11分で登ってこられる計算になる。

本来なら、ここからは昨年家族で訪れた尾瀬ケ原の様子が望める筈なのだが、隣の俎グラさえ見えないような状態では長居は無用。一度、俎グラ(8時44分)まで引き返し、帰路をどうするか考えたが、雨はもう降らないようであり、濡れて滑りやすい木道を下って行くのもイヤなので、当初の予定どおり長英新道を使うことにする。

俎グラから南に下るルートの入口も少々分かりづらい(=柴安グラ方向にちょっと進んでから左へ入る感じ。)のだが、そこから急な下山道を進んでいくと長英新道への分岐(9時1分)に出るので、ここを左折。この頃から、空がちょっと明るくなってきたような気がする。

そして、9時6分にミノブチ岳に着くと、霧の晴れ間からいきなり眼下に広がる尾瀬沼のお姿が目に飛び込んできた。その幻想的なまでの美しさには思わず我を忘れて立ち尽くしてしまった程なのだが、カメラを取り出そうとしているうちに再び霧に覆われていき、スイッチを入れたときはもう完全に手遅れ。妻や娘にも見せてあげたかったなあ。

しばらく待っていたのだが、再び霧が晴れる様子もないので止むを得ず先を進む。懸念していた長英新道は、事前情報のとおり一部荒れたところはあるものの、特に滑りやすいということは無く、見晴らしが無いことを除けば、まあ、快適と言っても良いくらい。10時23分にようやく尾瀬沼へ出た。

ここから先は良く整備された木道の上を進み、尾瀬沼ビジターセンターへの分岐(10時32分)を経由して11時12分に最終目的地である沼山峠に到着。御池の駐車場まではバスで戻ることになるが、紅葉シーズンが始まったということで臨時便が増発されているらしく、10分少々待っただけでバスに乗ることが出来た。

ということで、尾瀬沼に下りてきた頃からお天気は一気に回復し、大江湿原からは燧ヶ岳の山頂をハッキリと見ることができた。一瞬、引き返してもう一度登ろうかと思ったが、それは無謀というものであり、まあ、これで要領は良く分かったので、機会を見つけて再挑戦させて頂くことにします。