未成年

ドストエフスキーの五大長編の一作。とはいっても、知名度の点からいえば名作の誉れ高い他の4作品には相当及ばない訳で、俺も彼の作品を読み始めるまで本書のことは全く知らなかった。

内容の方は、貴族の私生児である主人公アルカージイとその実の父親であるヴェルシーロフとの愛憎劇を中心に、老公爵の財産を狙った陰謀の顛末やその娘である美貌の未亡人を巡る恋愛騒動等が描かれている訳であるが、主人公の一人称スタイルで書かれている文章はとても読みやすく、ドストエフスキー作品にしては珍しく、最後まで一気に読みとおすことができた。

その一方、“未成年”のアルカージイは、美貌の未亡人相手にイケナイ妄想を抱くのがせいぜいという、「罪と罰」のラスコーリニコフなんかとは比較にならないくらいに健全な精神の持ち主であり、ドストエフスキー作品の大きな魅力である人間心理の奥底を覗かせてくれるという点に関しては、相当に期待ハズレ。

その上、二重人格であるヴェルシーロフの“狂気”も最後まで不発のままであり、当初の予定では貴族と民衆との関係に関するもっと突っ込んだ(非キリスト教的な?)考察が行われる筈だったのではないかと思わせるふしもあるのだが、残念ながら実現しなかったようだ。

ということで、そんな数々の欠陥をものともせず、この長編を最後まで読みとおさせてしまう作者のパワーにはただただ敬服するばかり。俺にとって五大長編のトリとなる「白痴」を読むのがとても楽しみになりました。