北極星

1943年作品
監督 ルイス・マイルストン 出演 アン・バクスターダナ・アンドリュース
(あらすじ)
1941年、ソビエト連邦に属するノーススター村。学校が夏休みとなり、高校を卒業したダミアンは、女友達のマリナ(アン・バクスター)やクラウディア等と一緒にキエフへの卒業旅行を計画し、彼の兄でソ連空軍兵のユーリャ(ダナ・アンドリュース)が同行することになった。彼等は野宿をしながら徒歩でキエフに向かうが、その途中、突然飛来したドイツ軍の爆撃機によって攻撃を受ける…


ソビエト連邦を舞台にしたハリウッド製の戦争映画。

主演の二人以外にも、ウォルター・ヒューストンエリッヒ・フォン・シュトロハイムウォルター・ブレナンといった錚々たる顔ぶれのハリウッドスターが出演しており、かつ、ノーススターの村人ばかりかドイツ軍の兵士までが全編英語でセリフをしゃべるという点では、もう典型的なハリウッド映画と言っていいだろう。

戦時中に製作されているため、ロケ地もおそらく米国内なんだろうと思うが、それにもかかわらず、どこかハリウッド映画らしくない異国の雰囲気が漂うのは、ロシア出身であるルイス・マイルストン監督の手腕によるものなのかなあ。主演のアン・バクスターにしても、「熱砂の秘密(1943年)」に出演していた人と同一人物とは思えない、ある種の清潔さが感じられるあたりがとても新鮮。

まあ、公開当時、米国とソ連とは連合国同士だった訳であり、本作でも残虐なドイツ軍の行為に村民が一致団結して反抗する姿を格調高く描いているんだけど、“ソビエト=北天に輝く星”みたいな題名も含め、いくらなんでもちょっと持ち上げすぎ。当時のソ連スターリンが牛耳っていた訳であり、1939年のポーランド進攻での振舞いを見ても社会主義の理想と現実とのギャップは既に明らかだっただろう。

また、例によってエリッヒ・フォン・シュトロハイムがドイツ軍のインテリ軍医に扮している訳であるが、彼に対するノーススター村の医師カーリン(ウォルター・ヒューストン)のちょっと異常なほどの憎悪は、後の文化大革命クメール・ルージュにおける反エリート主義的な主張に繋がっているようで、まあ、いろんな意味で興味深かった。

ということで、実は、本作の原作・脚本を担当しているのは、あのリリアン・ヘルマンなんだけど、いったい彼女はどんな気持ちで本作の製作に協力したんだろうねえ。ウィリアム・A.ウェルマン監督の「中共脱出(1955年)」といい、当時のハリウッド映画人にもいろいろと苦労があったということなんでしょうか。