消えたカラヴァッジョ

長い間、行方不明になっていたカラヴァッジョの「キリストの捕縛」の“再発見”を巡るノンフィクション。

本の前半でこの再発見の一つのきっかけになるのが、やはりカラヴァッジョの「洗礼者ヨハネ」という作品なんだけど、去年のイタリア旅行のときに俺は幸運にもその実物を見ていたことが判り、ちょっと驚いた。

ローマ観光の2日目、そこのレストランで昼食をとる目的でカピトリーノ美術館に入ったんだけど、不味い冷凍ピッツァを食べながらパンフレットを眺めていたら、偶然にもそこにカラヴァッジョの絵が展示されているらしいことを発見! しかし、歩き疲れて弱っている妻子を誘うのはちょっと気が引けたので、しばらく迷った後、老骨に鞭打って俺一人で見に行くことにした。

まあ、そのときは絵の題名も判らなかったし、期待していたようなドラマチックなテーマの作品でもなかったので、正直、“これって本当にカラヴァッジョなのかなあ”って感じだったんだけど、この本を読んでいて“もしかして、あの作品が「洗礼者ヨハネ」だったの?”と思ってネットで調べてみたところ、これが大当たり。しかし、あの作品にこんないわく因縁があったとはねえ。やっぱりこの類の苦労は惜しまずにしておくもんだと改めて思いました。

ということで、この本には“カラヴァッジョという病”に冒された研究者たちが「キリストの捕縛」再発見の栄誉を賭けて日夜奮闘する姿が描かれているんだけれど、まるで上質のミステリイを読んでいるように思わず手に汗を握ってしまうのは作者ジョナサン・ハーの上手さなんだろう。願わくば前半のヒロインであるフランチェスカスコットランドの小さな教会で埃まみれの名画を発見するっていうクライマックスを期待していたんだけど、そこはノンフィクションの故、あの結末で納得するしかないのがちょっと心残り・・・。でも、とても面白かった。