無法松の一生

1958年作品
監督 稲垣浩 出演 三船敏郎高峰秀子
(あらすじ)
車夫の富島松五郎(三船敏郎)は“無法松”の異名をとる有名な暴れん坊。ある日、怪我をして泣いている少年を家まで送って行ったことから、その父親である吉岡大尉の家族と親しくなる。しかし、それも束の間、吉岡は妻の良子(高峰秀子)と気弱な一人息子を残して急死してしまう….


昔、伊丹十三のエッセイで、彼の父親である伊丹万作が病床で脚本を書いたというのを読んだことがあり、いつか見てみようと思っていた作品。万作も十三が13歳のときに他界しているんだよね。本当なら1943年に阪東妻三郎主演で映画化されたほうを見たかったんだけど、そっちがTSUTAYAに無かったため、やむなくこっちになったという次第。

さて、前半は松五郎が吉岡の遺児の父親代わりとして奮戦する様子が楽しく描かれているが、子どもの“父親離れ”が進むにしたがい、後半は松五郎の未亡人良子を想う気持ちが次第に前面に出てくるようになり、遂にはちょっと悲劇的な最期を迎える。

伊丹万作の脚本は、十三の父という割には(?)意外なほど素直で、伏線みたいなものもほとんど見られない。まあ、小説や舞台で既に有名だったお話しということで、脚本家の自由度はあまり高くなく、ヘタに技巧を凝らして“無法松”というキャラの魅力を減ずることを恐れたのかも知れないが、ちょっと期待外れ。

終わり近くなって、極めて無様な形ではあるが、松五郎から良子への“告白”があったのだから、それに対する良子側のリアクションを描いてもらえたら、終盤にもっと深みが出たと思うのだが、まあ、そういう作品ではないってことなんだろう。

松五郎を演じた三船敏郎はいつもながらの豪快な演技で、見せ場である運動会での徒競争や祇園太鼓のシーンは流石にとても面白い。一方、高峰秀子のほうは典型的な良妻賢母役ということで、印象に残るような演技がほとんどなかったのはちょっと勿体ない。

ということで、お話し自体は面白いし、大きな役ではないが飯田蝶子笠智衆田中春男等々の懐かしい俳優さんたちが沢山出てくるので、彼等の顔を見ているだけでも楽しくなる。まあ、結局、そういう作品なんだろうね。