メリー・ポピンズ

1964年作品
監督 ロバート・スティーヴンソン 出演 ジュリー・アンドリュースディック・ヴァン・ダイク
(あらすじ)
ロンドンの銀行に勤務するバンクス氏は規律を重んじる堅物だが、彼の二人の子どものジェーンとマイケルは大の悪戯好きであり、家庭教師が長く居着いたためしがない。今回も新しい家庭教師を募集することになり、子ども達は彼らの希望する条件を書いた紙を父親に渡すが敢えなく却下。しかし、煙突から空に舞い上がったその紙は風に運ばれてメリー・ポピンズジュリー・アンドリュース)の元へ….


アニメと実写の合成によるウォルト・ディズニー製作のミュージカル映画

我が家の子ども達が小さかった頃にビデオかDVDで見たのが最後だから、おもらくそれからもう十数年の歳月が経過していることになる。残念ながら、主演のジュリー・アンドリュースのもう一本の代表作である「サウンド・オブ・ミュージック(1964年)」に比べるとどうしても“物足りない”といわざるを得ず、「サウンド・オブ〜」の方は子ども達が大きくなってからも何度か鑑賞する機会があったのに対し、本作が我が家の話題に上がるようなことはほとんど無かった。

それを再見してみようとなったのは、もちろん先日拝見させて頂いた「ウォルト・ディズニーの約束(2013年)」の影響であり、“メリー・ポピンズの目的は、実は父親のバンクス氏を救うことだった”というその作品の主張の当否を自分の目で確認してみるため。正直、“お子様向け”のイメージが強かった「メリー・ポピンズ」にそんな裏テーマが隠されているとはにわかに信じられなかった。

さて、その検証結果であるが、本作の終盤の主役は間違いなくバンクス氏であり、それに比べてメリー・ポピンズの出番は極端なくらいに減らされてしまっている。以前見たときには、それが本作の散漫さ、バランスの悪さの原因と否定的に捉えていたのだが、“(悪役である)バンクス氏の改心”ではなく、“(真の主役である)バンクス氏の救済”という観点から見直してみると、確かにそれほどの違和感は無い。

ということで、有名な「チム・チム・チェリー」に登場する煙突掃除屋に関しても、バンクス氏に代表されるホワイトカラーの人々との対比の中で捉えた方がより味わいを増すのも事実であり、哀愁を帯びたあのメロディーのイメージにもピッタリ。単純すぎるようでお恥ずかしいが、本作に対する個人的評価もちょっぴりアップしてしまいました。

 マダム・マロリーと魔法のスパイス

2014年作品
監督 ラッセ・ハルストレム 出演 ヘレン・ミレン、マニシュ・ダヤル
(あらすじ)
政治のゴタゴタに巻き込まれてインドを追われたカダム家の人々は、インド料理のレストランを開くのに適した土地を探してヨーロッパ大陸中を旅していた。そんなとき、たまたま通りかかった南フランスのある地方都市で格好の中古物件を見つけるが、その建物の通りを挟んだ真向かいにあるのは、ミシュラン一つ星を誇るマダム・マロリー(ヘレン・ミレン)の高級フレンチ・レストランだった….


作品をコンスタントに発表し続けるラッセ・ハルストレムの新作コメディ映画。

カダム家の家長である“パパ”は、子ども達が止めるのも聞かずにその場所でインド料理のレストランを開くことを強引に決めてしまい、前半は、このパパとヘレン・ミレン扮するマダム・マロリーとによる営業妨害スレスレの攻防戦(?)が観客の笑いを誘う。

しかし、部下のシェフが勝手にやらかした人種差別的な嫌がらせについて、マダム・マロリーが素直に非を認めたことが契機となって両者の仲は急速に改善。後半は、彼女のレストランでフランス料理の修業をすることになったカダム家の次男ハッサン(マニシュ・ダヤル)の料理人、さらには人間としての成長がメインテーマになり、最高のハッピーエンドで幕を閉じる。

まあ、非常に後味の良いストーリーであり、南フランスが舞台となった映像も綺麗ということで、なかなか楽しく拝見できるのだが、どうしても“安易”という言葉が脳裏をよぎってしまうのがちょっとした問題。1946年生まれのラッセ・ハルストレムも70歳間近とはいえ、まだまだ老け込むような歳では無いだろう。

折角、移民の排斥運動という現在進行中の大きな社会問題を取り上げているのだから、そこのところをもっと深く掘り下げて欲しかったし、インド人の青年にフランス料理の神髄を伝えることに対するフランス側の心理的葛藤をきちんと描いていたら、イーストウッドの「グラン・トリノ(2008年)」にも通じる名作になっていたかもしれない。(?)

ということで、本作に対する最大の個人的不満は主演であるはずのヘレン・ミレンの出番が少なすぎるところ。パパ役のオム・プリのパワフルな演技に気圧されてしまった訳では無いだろうが、彼女のたどってきた人生に関する説明がごっそり抜け落ちているため、そのフランス料理に対する熱い想いのようなものがあまり伝わってこなかったような気がします。