穂高岳(2日目)

今日は、北穂高岳から奥穂高岳までのプチ縦走に挑戦する日。

その少し前から目は覚めていたのだが、午前4時に誰かのアラームが鳴ったのを合図に同室者に出発を告げ、乾燥室に入れておいたレインスーツ等を回収してからテント場へ向かう。天気は完全に回復しており、久しぶりに見る天の川の中にカシオペア座やオリオン座などを認めることが出来る。

平日の夜明け前ということで、テントの数はまばらであり、ライトを照らして出来るだけ平らになっていそうな場所を選んでテントの設置に取り掛かる。地面は石がゴロゴロしているが、いつものブルーシートの上に薄い銀マットを敷いたので、テント床面の保護対策は万全。そうするうちに夜が明けていき、周囲の素晴らしい風景が眺められるようになるが、モルゲンロードがあまり赤くならないのは時期的なせいなのだろうか。

さて、すっかり明るくなってきたので、持参したアタック用ザックにヘルメットを括り付け、目の前にそそり立つ北穂高岳を目指して5時42分にテント場を出発する。

涸沢小屋(5時49分)の前を通り過ぎると傾斜が次第にきつくなってくるが、周囲の壮大なスケールに呑まれて自分の歩行スピードが掴みきれない感じ。涸沢のテント場が随分小さくなってきたあたりでヘルメット姿の若者3人組に追い付いてしまい、先を譲られるが、これを固辞して彼等のペースを参考にさせてもらう。

しばらく進んだところで休憩に入った彼等を追い越させていただき、6時50分に南稜の取り付き場となる鎖場に到着。抜けるような青空と穂高連峰の素晴らしい眺めのおかげで疲れは全く感じないが、日差しが強いためいつもより水分の消費量が多く、持参したペットボトル1本を節約しながら飲むことになる。

奥穂高岳への分岐(7時54分)の手前で夫婦連れを追い越させていただき、8時5分に北穂高岳の山頂(3106m)に着くと、そこで昨晩同室だった茨城の若者とばったり。涸沢からここまで1時間50分で上ってきたそうであり、奥穂高岳前穂高岳を経由して今日中に上高地まで下りるという彼に気をつけてと声を掛けて、北穂高岳小屋へ向かう。

ここのテラスからの眺めを楽しみにしていたのだが、雲ひとつない今日は予想以上の素晴らしさ。他にお客もいないので自宅にメールしたり、注文したコーヒーを飲んだりしてのんびり休憩していると、先ほど追い越させていただいた夫婦連れが到着し、彼等もここから奥穂高岳を目指すとのこと。売店でペットボトル2本を購入し、ヘルメットを装着してから、先に出発した彼等の後を追う。

先ほどの分岐(8時37分)まで引き返し、そこを直進すると、人によっては“大キレットより怖い”と言われる岩場地帯が始まる。痩せた岩尾根を慎重に通過し、奥壁バンドと呼ばれる難所をトラバースしながら下っていくと、その終点付近で先行してくれた夫婦連れが一休み。ここからは俺が先を行かせていただき、9時28分に最低コル。

ここまでで約半分ということで、小休止の後、急斜面のアップダウンを繰り返してD沢のコルへ着くと、そこから先は鎖と梯子の連続であり、まあ、緊張を強いられるところはあるものの特に恐怖心は感じない。下ってくる登山客もいないため落石の心配も無用であり、10時19分に涸沢岳山頂(3110m)にたどりついてホッと一安心。

ここから穂高岳山荘(10時38分)まで下りていき、売店でペットボトル1本を買い足してからベンチで休んでいると、涸沢岳の山頂に人の姿が認められ、どうやらあの夫婦連れも無事到着したらしい。

さて、山荘から奥穂高岳までは空身で上る比較的ご高齢の登山客が多く、そんな方々を何組か追い越させていただいて、11時14分、本日の最終目的地である奥穂高岳の山頂(3190m)に到着する。残念ながら、その寸前にガスが湧いてきたため槍ヶ岳方面の眺めは悪化してしまったが、いつかは歩いてみたい前穂高岳や、いつになったら行けるのか分からないジャンダルムを眺めながら、ゆっくり腹ごしらえ。

その後、11時57分に穂高岳山荘まで引き返し、ザイテングラートを下って涸沢へ。分岐(12時54分)の先はパノラマコースを選び、雪渓(12時58分)を渡って、13時25分に涸沢のテント場に戻ってきた。歩行距離はちょうど8kmだった。

テント泊の受付は16時からということで、それまではのんびり昼寝モード。電波状況の良くないAMラジオを聞いていると、2020年のオリンピック開催地が東京に決まったとのニュースが耳に入ってくるが、まあ、この件に関しては、選ばれても、選ばれなくても困ったもんだと考えていたので、特に嬉しくも悲しくもない。選ばれたからには、経済力の弱いアジアやアフリカ諸国でも開催可能な安上がりのオリンピックのお手本を見せて欲しいところだが、おそらくそれとは真逆の内容になるんだろうなあ。

ということで、軽装備での山歩きはやはり天国であり、好天に恵まれたこともあって、とても楽しい一日を過ごさせていただいた。いつかは大キレットにも挑戦させていただこうと思うが、その際は、テント泊は諦め、山小屋泊装備で楽しく歩きたいと思います。