暗黒街の顔役

1932年作品
監督 ハワード・ホークス 出演 ポール・ムニ、アン・ドヴォラック
(あらすじ)
トニー・カモンテ(ポール・ムニ)は、密造酒ルートを牛耳るギャングの大親分ビッグ・ルイ・コステロの用心棒役を務めていたが、敵対していたギャングのロヴォに買収されてコステロを殺害し、縄張りを引き継いだロヴォの組織のNo.2へとのし上がる。しかし、野心家のトニーはその地位に満足しようとせず、ロヴォの止めるのも聞かず、強引なやり方で縄張りを広げようとする….


ハワード・ホークスの監督による傑作ギャング映画。

アル・カポネをモデルにしたという主人公のトニーは、まさに“邪魔者は殺せ”といった感じで、自分の出世のために障害となる人物は片っ端から殺しまくるというトンデモない人物である。

こういった義理も人情も関係ないやり方の故、彼自身、いつ命を狙われてもおかしくない訳であるが、そんな彼が心を許すことのできる仲間は古くからの子分であるリナルドジョージ・ラフト)とアンジェロの二人だけ。まあ、頼りになるリナルドはともかく、アンジェロの方は文字もロクに書けないようなボンクラなんだけど、そんな彼のことを秘書として手元に置き続けるあたりに、トニーの孤独感が色濃く滲み出ている。

それと、もう一人、トニーは妹のチェスカ(アン・ドヴォラック)のことをとても大切に思っており、このことが最終的に彼の破滅の原因になってしまうんだけど、当初の構想ではこの両者の関係はもっと深刻で、近親相姦的な色合いが濃かったらしい。当然、今回拝見したのは検閲後の作品なんで、あまり露骨なシーンは出てこなかった訳であるが、確かにその設定を残しておいた方が、あのラストシーンはさらに衝撃的だったのかもしれない。

主演のポール・ムニは、この冷酷無比な役を、ちょっとお茶目な雰囲気を織り交ぜながら魅力的に演じており、公開当時、当局がギャングを美化しすぎると言って非難したというのも十分に理解できる。また、ニヒルで無口なリナルド役を演じたジョージ・ラフトと、とても十代とは思えない色香を漂わせるチェスカ役のアン・ドヴォラックの二人も、共にとても印象的だった。

ということで、これでギャング映画の古典とされる3作品(「犯罪王リコ(1930年)」、「民衆の敵(1931年)」及び本作)を一通り拝見させて頂いた訳であるが、この中では、もう、本作が圧倒的に一番面白い。この当時、まだ30代だったハワード・ホークスは、この流れるようにスピーディで、かつ、大胆な演出方法を一体どうやって身に付けたのでしょうか?