ファンタスティックMr.FOX

2009年作品
監督 ウェス・アンダーソン
(あらすじ)
鶏泥棒の名人だったキツネのフォクス氏も妻の妊娠を契機に堅気の新聞記者へと転職し、今では妻や息子のアッシュと共に平穏な暮らしを送っていた。しかし、人生も折り返し地点に差し掛かり、人生に満たされぬものを感じていた彼は、それまでの穴ぐら暮らしに別れを告げ、丘の上の木の家に引っ越すことを決意。さらには野生の本能の命じるまま、悪名高い3人の農場主が経営する牧場に盗みに入ることに….


ウェス・アンダーソン監督が初めて手掛けたストップモーション・アニメ

グランド・ブダペスト・ホテル(2013年)」がとても面白かったので、同じ監督の過去の作品を見てみようという単純な動機だけで何の予備知識も無いまま鑑賞に及んだのだが、いきなりキツネの人形が画面に登場してきて吃驚仰天。いい年こいたオヤジとしては、アニメ作品を鑑賞するときにはそれなりの屁理屈を考えてから見るのが習性となっているのだが、本作に関しては全く虚を衝かれたっていう感じ。

しかもセリフは棒読みみたいだし、パペットの動きもスムーズじゃないということで、失敗したかなあと思いながら見ていたのだが、そんな不安を憂いていたのもわずか数分のこと。次第に本作の魅力に引き込まれてしまい、後は最後まで目を離すことが出来ない。正直、映画を見ていてこんな幸福感を味わったのは久しぶりのことだと思う。

ロアルド・ダールの児童文学「すばらしき父さん狐」という作品が原作だそうであり、元々が子ども向けということでストーリーは単純。しかし、本作のテーマは(男としてのと言いたいところだが)“野生生物としてのプライド”であり、実際はとてもハードボイルドな内容の作品になっている。

そんな男臭いテーマを、細かいギャグや柔らかな色使い等を駆使してあくまでも子ども向けに可愛らしく表現して見せたウェス・アンダーソン監督の手腕は驚くべきものであり、確かにこの万華鏡を覗いたような不思議な味わいは実写の作品ではとても表現できなかったことだろう。

ということで、遅まきながら俺の中でのウェス・アンダーソン株は急上昇中といったところであり、引き続き彼の作品を拝見させて頂こうと思う。まあ、かなりの周回遅れになってしまったのはちょっと口惜しいが、これから素晴らしい作品をまとめて楽しむことが出来ることを思えば、むしろ幸福と考えるべきなのでしょう。