素晴らしき日曜日

1947年作品
監督 黒澤明 出演 沼崎勳、中北千枝子
(あらすじ)
雄造(沼崎勳)と昌子(中北千枝子)は都会に住む恋人同士。日曜日ごとにデートを楽しんでいたが、二人とも生活は苦しく、その日の所持金も二人あわせてたった35円しかなかった。建売住宅の展示を見たり、動物園に行ったりした後、昌子の提案により最後の20円を使ってクラシックのコンサートを聞きに行くことになったが….


今まで見逃していた黒澤作品を見る特集の第5弾ということで、今度は間違いなく初めて見る作品だった。

先日見た「わが青春に悔なし(1946年)」の翌年に公開された作品であり、デートのことを“ランデヴー”と呼んだり、コーヒー1杯が5円(ただし、ミルクコーヒーは1杯10円)だったりと、当時の社会風俗が丁寧に紹介されているあたりはなかなか興味深い。資金不足からか、セットでの撮影は少なく、都内の各所でロケを行っているため、実際の焼け跡の風景なんかも見ることもできる。

前半、若者たちの貧しい生活ぶりを描いた後で、途中から一気にファンタジー色が強くなるという構成は、前に見たデ・シーカの「ミラノの奇蹟」を思い起こさせるところであるが、確認したらあっちは1951年公開ということで、こちらのほうが先に製作されていた。

まあ、現実にはこの数年後の朝鮮特需により我が国の経済は飛躍的な復興を遂げる訳であるが、もしもこのままの状況があと数年続いていたら、我が国の若者たちはいったいどうなっていたんだろうかと、見ていてちょっと考えてしまった。

出演者の方も見事なくらいに地味な顔触れを揃えており、主演の沼崎勳はこれまで全く意識したことのなかった俳優さん。相手役の中北千枝子については、名前だけは聞いたことはあったが、今回、ネットで最近の画像を検索してようやく顔と名前が一致したところであり、唯一人、見ていて確認できたのはダフ屋に扮した堺左千夫だけだった。

ということで、前半のエピソードがどれもこれもあまり興味を惹かれないものばかりなのが残念である(特に、雄造のアパート内でのエピソードなんかは、今の若者には意味不明なんじゃないだろうか。)が、後半の展開からは翌年の名作「酔いどれ天使(1948年)」につながる手応えのようなものを感じ取ることができ、まあ、それなりに面白く見終えることができました。