裸足の伯爵夫人

1954年作品
監督 ジョセフ・L.マンキーウィッツ 出演 ハンフリー・ボガートエヴァ・ガードナー
(あらすじ)
落ち目の映画監督ハリー・ドーズ(ハンフリー・ボガート)は、成り上がり者のプロデューサーのお供で、ダンサーのマリア(エヴァ・ガードナー)をスカウトするためにマドリッドのカフェへとやってくる。彼女を気に入ったプロデューサーの命令で、ハリーはマリアを口説き落とし、彼女を自分の映画に主演させることに成功するが….


なかなか見る機会に恵まれなかった、ジョセフ・L.マンキーウィッツのというより、エヴァ・ガードナーの代表作。

ハンフリー・ボガート扮する映画監督のハリーには、別にそこそこ美人でしっかり者のパートナーがいるという設定であり、どちらかというと彼は映画界に入ったマリアの保護者的な存在。

一方のマリアは、成り上がり者のプロデューサーから南米の億万長者へと男を乗り換えるだけでなく、この間、浮気相手もしっかりキープしているという奔放な性格の女性として描かれているんだけど、題名にある「裸足の」という言葉は、そんな彼女の情熱的な一面だけでなく、童話に出てくるシンデレラのようにガラスの靴を持った王子様が迎えに来てくれるのを夢見るという彼女の隠された一面をも表している。

そして、ついに彼女の望みどおり、イタリア人のファブリーニ伯爵(ロッサノ・ブラッツィ)に見染められ、彼の正式な妻として迎えられることとなるんだけど、そこはジョセフ・L.マンキーウィッツの脚本ということで、最後にはなんともほろ苦いラストが用意されている。ハリーが、冷たくなった彼女の足から靴を脱がせるシーンは、なかなか印象的です。

主演のエヴァ・ガードナーは、公開当時32歳のまさに女盛り。その美貌と肉感的な姿態から発せられる濃厚な色香の威力は凄まじく、(まあ、それを引き出したマンキーウィッツの演出も褒めるべきなんだろうが)正直、本作の魅力の90%くらいはこの点に凝縮されているといっても過言ではない。この前年に公開された「バンド・ワゴン(1953年)」に彼女がカメオ出演したときの取扱いを見ても解るとおり、この頃が彼女の全盛期だったんだろうなあ。

ということで、ダンサーという設定にもかかわらず、なかなかマリアのダンス・シーンを見せてくれないあたりは、いかにもマンキーウィッツらしい意地の悪さ。そして、後半になってやっとジプシーと一緒になって踊る彼女の姿を拝ませて頂いたとき、観客もファブリーニ伯爵と一緒に彼女の魅力の術中へと陥る訳です。