海外特派員

1940年
監督 アルフレッド・ヒッチコック 出演 ジョエル・マクリー、ラレイン・デイ
(あらすじ)
第二次世界大戦前夜、特派員としてロンドンに派遣された米国の新聞記者ジョニー・ジョーンズ(ジョエル・マクリー)は、本社から戦争回避の鍵を握るオランダの政治家ヴァン・メアの取材を命じられる。アムステルダムの平和会議に出席したメアはジョーンズの目の前で射殺されてしまうが、犯人を追跡した彼は風車の中に閉じこめられていたメアを発見。殺されたのは替え玉だった…


米国に渡ったヒッチコックが「レベッカ(1940年)」の次に監督したいわゆる戦意高揚映画。

まず、ある特定の人物が戦争回避の鍵を握っているという設定自体が荒唐無稽であり、その後のストーリー展開にもかなりの強引さが目立つのは大きなマイナスポイント。また、主演を任されたジョエル・マクリーは完全な力量不足であり、後にヒッチコック作品の常連になるケーリー・グラントが主演してくれていたらと思わせるシーンも決して少なくはない。

しかし、そんな致命的とも思える欠点を見事にカバーしているのがヒッチコックの演出力であり、国策映画ということでプロデューサーの財布の紐が緩んだせいなのかもしれないが、大規模なセットや特撮技術を駆使することにより、立派なB級アクション映画の大作に仕上げられている。

個人的には、「見知らぬ乗客(1951年)」のような小品の方にヒッチコック・マジックの神髄を感じるところだが、「北北西に進路を取れ(1959年)」や「鳥(1963年)」みたいなスケールの大きな作品も無難にこなしてしまうあたりが彼のスゴイところであり、本作のクライマックスになる旅客機の墜落シーンは迫力十分。トム・クルーズあたりがリメイクすれば、ミッション:インポッシブル・シリーズの立派な新作になると思う。

また、格好良さの点では完全に主役を食ってしまっているジョージ・サンダースや、コメディリリーフロバート・ベンチリー等々、ジョエル・マクリーの力量不足を補うために起用された脇役陣もそれぞれ良い味を出している。さすがに最後のラジオ演説のシーンにはやや唐突感があるが、英国出身のヒッチコックにしてみれば、単なる国策映画への協力以上の意味があったのではなかろうか。

ということで、本作はアマプラの方で拝見させて頂いたのだが、意外なことに洋画・邦画を問わず昔のモノクロ映画がそれなりに充実しているようであり、これってクリスマスシーズンになると今でも「素晴らしき哉、人生!(1946年)」がTVで放映されるっていう米国の流儀に倣ったものなのでしょうか。