イップ・マン 序章

2008年
監督 ウィルソン・イップ 出演 ドニー・イェン、サイモン・ヤム
(あらすじ)
1930年代の中国広東省佛山。詠春拳の達人として知られるイップ・マン(ドニー・イェン)は、家族と一緒に静かな暮らしを送っていたが、日中戦争勃発後、侵攻してきた日本軍によって屋敷を奪われ、窮乏生活を強いられることになってしまう。そんなある日、日本軍の三浦将軍が主宰する空手道場を訪れたイップ・マンは、そこで旧知の拳法家が日本兵によって射殺されるのを目撃する…


「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(2016年)」にも出演していたドニー・イェン主演のカンフー映画

タイトルだけは知っていたが、おそらくドニー・イェンが“イップ・マン”なるスーパーヒーローに変身して悪者を退治するおバカ映画だろうと思って長らく放置。しかし、たまたまAmazonプライム・ビデオで見られることを知って何気なく見てみたところ、本格的なセットと落ち着きのある美しい映像に吃驚仰天。思わずそのまま見入ってしまった。

さて、“イップ・マン”というのはスーパーヒーローの名前ではなく、中国武術の盛んな広東省佛山で広く尊敬を集めている詠春拳の達人の名前。漢字では“葉問”と書くようだが、見終わってから調べたところによると実在のモデルが存在するそうであり、それは何とあのブルース・リーにカンフーを教えたお師匠様。

まあ、そんな訳で本作でもイップ・マンの強さは群を抜いており、手始めに三浦の門下生10人を一人でボコボコにしたのに続き、三浦との頂上対決にも当然勝利。CGや派手なワイヤーアクションの使用を控えているためにアクションシーンは少々地味目だが、逆にそれが格闘シーンのリアリティを高める結果になっており、イップ師匠のストイックな性格にもよく似合っている。

ストーリーやや単純過ぎるところが難点だが、そんな中で日本軍の通訳を務めることになる元警察官の李のキャラクターが秀逸であり、周囲から裏切者と陰口を叩かれながらも必死になって自分の妻子や兄弟の生活を支えている。日本兵に殴られて血だらけで帰宅した彼を見て家族が何も言わないのは、それが避けようのない彼の日常だからなのだろう。

ということで、ネット上には“反日映画”の文字も散見されるが、自分の友人や家族に対してあんな酷いことをされれば、日頃は温和なイップ師匠でも怒るのが当たり前。何でもかんでも国家の枠にとらわれて考えてしまうのは愚かなことであり、そんなことを言う人は多くのハリウッド製戦争映画を“反独映画”だと思って見ているのでしょうか。