テス

1979年
監督 ロマン・ポランスキー 出演 ナスターシャ・キンスキー、ピーター・ファース
(あらすじ)
19世紀末の英国ドーセット地方。貧農の娘に生まれたテス(ナスターシャ・キンスキー)は、母親の言いつけで嫌々挨拶に行かされた名門ダーバビル家のバカ息子アレックに気に入られ、住み込みでその農場で働くことになる。実家への支援をチラつかされて彼の情婦にされてしまったテスは、そんな暮らしに嫌気が差して実家に帰ってくるが、そのとき既に彼女はアレックスの子を妊娠していた…


アメリカを脱出してフランスに移り住んだ頃のロマン・ポランスキーが発表した文芸大作。

タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019年)」が1969年に起きたシャロン・テート殺害事件を取り扱っているとのニュースを耳にして、長らくこの作品を見逃していたことを思い出す。本作はポランスキーが亡き妻シャロンに捧げたものであり、オープニングに「for Sharon」という文字が表示される。

さて、やがて生まれた子供は間もなく息を引き取ってしまうのだが、正式な洗礼を受けていないという理由で教会の墓地に埋葬してもらうことは出来ず、また、その後愛し合うようになる牧師の息子エンジェルも、彼女の過去を受け入れることが出来ずに一人で異国の地へと旅立ってしまう。

ラストに登場するストーンヘンジの遺跡は、そんな偏狭で堅苦しいキリスト教の神には見切りを付けてしまい、もっと生命力に満ち、恋愛にも寛容だったと思われる古代の神々によってテスが救われ、犯した罪を許されることを願う原作者トーマス・ハーディの配慮だったのかもしれない。というか、そうとでも考えないとあまりにテスが可哀想すぎる。

実はちょうど今、テスと同じヴィクトリア時代の思想家であるジョン・ラスキンの書いた本を読んでいる最中なのだが、彼は様々な社会悪を放置している当時のキリスト教関係者の怠慢を「空想的キリスト教」と呼んで批判はしている。しかし、その一方で「神の摂理によってその人が現在置かれている境遇に満足すべきである」という言葉にも一定の評価を与えており、うーん、彼はテスのような生き方をどう考えたのだろうか。

ということで、テスの母親が器量の良い娘をダーバビル家に挨拶に行かせたのは“あわよくば玉の輿…”という気持があったからであり、アレックがテスのことを(当時のやり方で)愛していたのも間違いない。つまり、テスが“真実の愛を貫こう”などと思わなければ皆が幸せになれた可能性が高かった訳だが、少なくとも個人的にはテスは被害者であり、彼女の生き方を非難する気には到底なれません。