2016年
監督 トラヴィス・ナイト
(あらすじ)
彼の左目を奪った謎の刺客の目を逃れ、病弱な母親と二人でひっそりと暮らしている少年クボ。彼には三味線の音色で折り紙を自在に操るという不思議な能力があり、近くの村でそれを披露してわずかばかりの日銭を稼いでいた。そんなある日、“日が暮れる前に帰っておいで”という母親との約束に背いたせいで刺客に見つかってしまった彼は、急遽駆け付けた彼女の最後の力で何とか窮地を脱するが…
ナイキ創業者の息子であり、黒澤明や宮崎駿に影響を受けたというトラヴィス・ナイトの監督デビュー作。
劇場公開時はそれほど大きな話題にならなかったと思うが、日本を舞台にしたストップモーション・アニメということで興味を持った次第。原案や脚本といった主要スタッフにも日本人の名前は見当たらないため見る前は少々不安だったが、なかなかどうして、時代劇として見てもさほど違和感のない立派な冒険活劇に仕上げられていた。
さて、母親を失ってしまった主人公は、その後仲間に加わるサルやクワガタと協力しながら刀、鎧、兜という三つのアイテムを探し出し、最後はラスボスである月の帝に戦いを挑む、というストーリーはまるでドラクエであり、今や冒険活劇の一つの定番なんだろうが、正直、あまり新鮮味は感じられない。
そんなオーソドックスなストーリーにアクセントを付ける目的で日本趣味を採用したのかもしれないが、折り紙やがしゃ髑髏といった和風アイテムを取り入れた映像はストップモーション・アニメという表現方法にピッタリであり、それに気付いたのが日本人じゃないところがちょぴり残念なくらい。
一方、そのストップモーション・アニメのクオリティは正に驚異的なレベルなのだが、長年ハリーハウゼンの映画に親しんできた世代からすると適度なカクカク感(?)が無いのはむしろ物足りないくらいであり、まあ、贅沢な不満ではあるが、事前情報が無かったら普通の3Dアニメだと思って見ていたかもしれない。
ということで、三味線や和太鼓等の和楽器を駆使した音楽を担当しているのもイタリア出身のダリオ・マリアネッリだし、日本人の手を借りずにこれだけの作品を作り上げたことには、正直、脱帽せざるを得ない。とても残念なことだが、今の日本にこれだけ金の掛かったストップモーション・アニメを作るだけのパワーは残されていないような気がします。