日の名残り

1993年作品
監督 ジェームズ・アイヴォリー 出演 アンソニー・ホプキンスエマ・トンプソン
(あらすじ)
長らくダーリントン卿の執事として仕えてきたスティーヴンス(アンソニー・ホプキンス)は、伯爵の死後、その屋敷の新たな主人となった米国の富豪ファラディ元下院議員の下で働くことになる。そんなある日、以前、一緒に働いていたベン夫人(エマ・トンプソン)からの昔を懐かしむ手紙を受け取ったスティーヴンスは、彼女の再就職の意思を確認するために旅に出ることに…


先日、ノーベル文学賞の受賞が決まったカズオ・イシグロ原作の英国映画。

妻と一緒に楽しく見ていた「ダウントン・アビー」が終ってしまい、その喪失感を癒やすための“代用品”として手に入れておいた作品であり、原作者のことなんてあまり気にも掛けずにしばらく放っておいたのだが、今回のノーベル賞受賞のニュースを耳にしてにわかにその存在を思い出す。

さて、忠実な執事であることを日々心掛けていたスティーヴンスにとってみれば、自分の素直な感情を押し殺さなければなかった場面も沢山あった訳であり、ベン夫人(=一緒に働いていた頃はミス・ケントン)との淡い思い出もそのひとつ。頼みもしないのに、毎日、彼の部屋に花を飾ってくれていたのは一体何故だったんだろう…

まあ、そんな具合に、ダーリントン卿の下で二人して働いていた頃の回想シーンを中心にストーリーは展開していくのだが、当時は第二次世界大戦の開戦前夜であり、名誉や正義を重んじるダーリントン卿は、過酷なヴェルサイユ条約によって莫大な賠償金を抱えることになってしまったナチス・ドイツに対してちょっぴり同情的。

そのため、米国のファラディ下院議員(当時)から“外交のアマチュア”と指摘されてしまい、戦後は国中から“裏切り者”と非難されて失意のうちにこの世を去ることになるのだが、そんなダーリントン卿の“高潔さ”を一番良く理解していたのも執事のスティーヴンス。声を大にして伯爵の弁護をしたいところであるが、いつものクセでつい口をつぐんでしまうんだよね。

ということで、古き良き英国の貴族社会の終焉を背景に、それに一生を捧げてきた老執事の深い嘆息とともに映画は幕を閉じるのだが、当然、その感動の前では原作者が日本人かどうかなんてことはどうでも良いことであり、それは監督のジェームズ・アイヴォリーが米国人であるのと同じこと。我が国の政府、マスコミ等におかれましては、今回のカズオ・イシグロ氏のノーベル賞受賞に対して冷静な対応をお願いしたいと思います。