後衛の位置から 「現代政治の思想と行動」追補

丸山真男が1982年に発表した論文集。

といっても、“「現代政治の思想と行動」追補”という副題からも分かるとおり全体で200ページにも満たない文量であり、2編の論文と英語版「現代政治の思想と行動」への著者序文の他、附録として英語版「現代政治の思想と行動」に対する5編の批評が収められているに過ぎない。

第1論文の「憲法第九条をめぐる若干の考察」の初出は1965年ということで、当然、目新しいことは書かれていないのだが、それにもかかわらず、そのほとんどの論点が現在の改憲論に対する批判としても当てはまってしまうところが興味深い。その理由としては、もちろんこの論文自体の卓見性というのもあるのだろうが、それ以上に現在の改憲論の旧態依然とした性格によるところが大きいようであり、その多くが戦後間もない頃からの議論の焼き直しであることに改めて驚かされた。

次の「近代日本の知識人」では、知識人の所属すべき“職場の違いを超えた一つの知的共同体”が我が国において成立しなかった理由を考察しており、特に、昭和初期におけるマルクス主義の受容に関するインテリの心理分析なんかはとても面白い。しかし、現在の反知性主義的な風潮を考えてしまうと、こんな議論が出来た当時の状況が懐かしく(羨ましく?)思い出されるばかりであり、2chもどきの国会答弁が横行する悲惨な現状を丸山が見たら一体どんな感想を述べるのだろう。

ということで、附録の中ではサイデンステッカーの辛辣な批評が強烈であり、今回、原典にあたった訳ではないので詳しくは分からないが、要するに“「抑圧委譲」のメカニズムで説明される我が国の無責任体制下において支配層の責任を問うことの矛盾”みたいな点を批判しているのかなあ。しかし、彼の自伝では、丸山のことを「興味深い意見もしばしば吐くし、中には卓見といっていい場合も少なくはない」と評しており、まあ、(彼の政治的スタンスはともかく)学者としての資質自体は高く評価していたみたいです。