桶川ストーカー殺人事件 遺書

清水潔というジャーナリストが書いたノンフィクション作品。

1999年10月に埼玉県桶川市で起こった女子大生殺人事件を取材したものであり、所轄である埼玉県上尾署の杜撰な捜査等に対する批判が重要なテーマになっている。とはいっても、本書を手にした直接の動機は“読み物として面白い”という評判を耳にしたからであり、確かに一度読み始めると途中で止めることは出来ず、一気に読み終えてしまった。

さて、事件の内容は、元交際相手からの執拗ないやがらせに身の危険を感じた被害者が、相談した警察の助けも得られないまま殺害されてしまったというものであり、被害者の友人からその元交際相手の実名を教えられた雑誌FOCUSの記者(=この人が著者である清水潔)が警察よりも先に実行犯(=元交際相手の知人)の居場所を探り出し、警察に通報して逮捕に至るというのが本書の前半部分。

ここまでは、あまりにも身勝手で常軌を逸した元交際相手の言動に対する怒りと著者による犯人捜しの面白さとが本書を読み進める原動力になるのだが、それに一層拍車を掛けるのが後半部分で暴かれる警察の怠慢と欺瞞とに対する猛烈な腹立たしさであり、被害者&家族の無念さを思うと途中で本を手放すことは出来なくなる。

まあ、警察官といえども所詮は我々と同じサラリーマンであり、(百歩譲って)仕事の手を抜きたくなる気持ちも分からないではないのだが、その結果起こってしまった悲劇の責任くらいは素直に甘受すべきであり、あくまでも殺人事件に対する元交際相手の関与を認めずに損害賠償を値切ろうとする不遜な態度は(それを追認してしまった司法ともども)決して許されるべきではない。

ということで、我が国の刑事司法と警察権力とのズブズブの関係はもう否定しがたい事実であり、共謀罪が認められてしまえば“警察に睨まれたらおしまい”という恐ろしい社会が到来することになるのだろう。本書では、警察発表をそのまま記事にするだけの大手マスコミの堕落ぶりにも言及されているのだが、う〜ん、このような世の中でいったい誰がウォッチマンをウォッチしてくれるというのでしょうか。