すべて王の臣

ロバート・ペン・ウォーレンという米国人作家が書いたピューリッツァー賞受賞作。

映画「オール・ザ・キングスメン(1949年)」の原作であり、おそらく映画の方はずっと昔に見ているはずなのだが、幸か不幸かストーリー等は全く記憶に残っておらず、新鮮な気持ちで読むことが出来た。

ストーリーは、政治家を目指すウィリイ・スタークという青年が、挫折の中から学んだ“理想を実現するためには汚い手段を用いることもやむを得ない”という考えに基づいて地方政界を牛耳っていくという内容なのだが、「グレート・ギャツビー」のニック・キャラウェイ同様、本作にも作品の語り手として元新聞記者のジャック・バードンなる人物が登場する。

で、このジャック君、決して悪い男ではないのだが、ちょっと饒舌すぎるのと自分のことばかり話したがるところが大きな欠点であり、なかなかウィリイ・スタークの日常の様子等を教えてくれない。全部で500ページ以上ある長編小説なのだが、その半分以上はジャック・バードンの個人的なエピソードで占められているんじゃないのかなあ。

まあ、そういうお話だと思って読む分には特に支障は無いのだろうが、俺としてはポピュリスト政治家として有名なヒューイ・ロングをモデルとしたという主人公ウィリイ・スタークの生き方に興味があって本書を手にした訳であり、彼の人生哲学や理想等についてもっと詳しく知りたかった。

ちなみに、本書の中でも自分の名前を冠した州立病院を建設し、誰でも無料で医療を受けられるようにするという州知事としての彼の政策が紹介されているのだが、その財源として税制改正もちゃんと考えているようであり、個人的には金持ちから搾り取った税金で貧乏人に無料で医療を提供することをポピュリズムと呼ぶのにはかなり抵抗がある。

ということで、その他にも脅迫やら不当な入札等で自己の票固めをするといったエピソードが取り上げられているのだが、最近の我が国における政治の腐敗ぶりに比べたらあまりにも幼稚な手口ばかりであり、人事や税制によって党内や官僚、マスコミ等を合法的(?)に支配し、自分への批判には一切耳を貸さないという現政権の方がずっと「すべて王の臣」というタイトルに相応しいと思います。