フォックスキャッチャー

2014年作品
監督 ベネット・ミラー 出演 スティーヴ・カレルチャニング・テイタム
(あらすじ)
レスリング選手のマーク・シュルツ(チャニング・テイタム)はロサンジェルス・オリンピックの金メダリスト。しかし、世間が注目してくれたのはほんの一瞬のことであり、同じ金メダリストでコーチとしても有能な兄のデイブと比べると、私生活も含めて見劣りすることばかり。そんなある日、デュポン家の御曹司であるジョン(スティーヴ・カレル)から会いたいという連絡が入る….


カポーティ(2005年)」、「マネーボール(2011年)」に続くベネット・ミラーの実録もの。

鑑賞後に調べてみたのだが、マーク・シュルツが金メダルを獲ったロサンジェルス・オリンピックは1984年の開催であり、本作で描かれているソウル・オリンピックが開かれたのはその4年後の1988年。そして、ジョン・デュポンがデイブ・シュルツを射殺したのは1996年のことらしい。

一方、映画では、ソウル・オリンピックの直後にデイブ・シュルツ殺害事件が発生したかのように描かれており、まあ、それ以外にもいろいろ事実と異なる描写があるようなのだが、映画を面白くするための脚色であれば基本的にOKというのが俺の考えであり、おそらく「カポーティ」や「マネーボール」でもそれなりの脚色は行われていたのだろう。

不満なのは、その脚色によってジョンの殺害動機が分かり易くなってしまったことであり、“オリンピックの金メダリストを育ててママに褒めてもらおうと思ったのに、役立たずの兄弟のせいで計画はおじゃん。それにもかかわらず、休日だからといって練習をサボるのはけしからん”という筋立てはちょっと単純すぎて面白くない。もっと複数の解釈を可能にするような配慮が必要だったように思う。

一方、スティーヴ・カレルチャニング・テイタムそしてデイブ役のマーク・ラファロの3人による演技合戦はとても緊張感に満ちており、本作の最大の見所になっている。特に、後二者によるアマチュアレスラーの演技に全く違和感がないというのは、本当に凄いことだと思う。

ということで、スティーヴ・カレルのそっくりさんぶりは、「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマン並だったらしいのだが、彼の場合と違って惜しくもアカデミー賞を逃してしまったのは、トルーマン・カポーティとジョン・デュポンの人間的魅力の差だったのかもしれません。