グッバイ、レーニン!

2003年作品
監督 ヴォルフガング・ベッカー 出演 ダニエル・ブリュールカトリーン・ザース
(あらすじ)
1989年の東ベルリン。熱烈な社会主義者であるクリスティアーネ(カトリーン・ザース)は息子アレックス(ダニエル・ブリュール)が反体制デモに参加して警察に逮捕される現場を目撃し、ショックのあまり心臓発作を起こして昏睡状態へ。それから8ヶ月、彼女が奇跡的に意識を取り戻したときにはベルリンの壁の崩壊など社会は大きく変わっていたが、再発を恐れるアレックスはその事実を母親に伝えることが出来ない….


ベルリン国際映画祭でヨーロピアンフィルム賞に輝いたコメディ映画。

1989年というのは東西ドイツにとってまさに激動の年であり、10月18日のホーネッカー書記長の失脚や11月10日のベルリンの壁の崩壊等、極めて短期間の内に東ドイツ社会主義体制の実質的な解体が進み、その勢いはそのまま翌年10月3日の東西ドイツの統一へと繋がっていった。

このような(社会主義者にとっての)悲劇的事実を知ることに母親の弱った心臓が耐えられるはずは無いと考えたアレックスは、彼女を自宅に引き取り、外部からの情報を遮断することによって旧来の社会主義体制がそのまま維持されているように装うことを決意。しかし、身近に押し寄せる資本主義の大波のパワーは強烈であり、それを押し返そうと努力する彼の涙ぐましい奮闘ぶりが観客の笑いを誘う。

まあ、最初の15分くらいは主人公アレックスの決して幸せだったとは言えない幼年時代の描写に始まり、母親の発病、看護と結構シビアなシーンの連続なのだが、そんな重苦しい雰囲気を一掃してくれるのが、母親から真実を隠すためにアレックスがでっち上げたインチキなニュース映像の数々。

窓の外に掲げられたコカコーラの宣伝幕について“コカコーラは実は東ドイツの発明品だった”と説明し、また、街中で見掛けるようになった大勢の西ドイツ人のことを“社会主義の理想に共感した西側からの亡命者”と呼ぶなど、インチキとはいえそのユニークな発想には思わず感心してしまう。

ということで、そんなインチキニュースの最後を飾るのは、“開かれた社会主義”の当然の帰結として説明される東西ドイツの(もう一つの)統一。本作は本国ドイツでも記録的な大ヒットになったらしいのだが、その要因は東ドイツへの単なる“郷愁”だけでは無かったような気がします。