海の上のピアニスト

1999年作品
監督 ジュゼッペ・トルナトーレ 出演 ティム・ロス、プルイット・テイラー・ヴィンス
(あらすじ)
航海中の豪華客船のピアノの上に捨てられていた赤ん坊は、その生まれた年にちなんでナインティーハンドレッドティム・ロス)と名付けられ、一度も船から降りることなく青年へと成長していく。幼い頃からピアノ演奏に非凡な才能を見せていた彼は、やがて船内の楽団のピアニストになり、新たに加わったトランペッターのマックス(プルイット・テイラー・ヴィンス)との間に友情を育む….


以前から題名だけは聞いていたジュゼッペ・トルナトーレ監督の代表作の一つ。

冒頭、ニューヨークの港内に立つ自由の女神像を見つけた移民の人々が一斉に歓喜の声を上げるというシーンが登場するのだが、本作の主人公は彼等とは真逆のひきこもり男。ピアニストとしての腕前は超一流であり、陸地に下りてショービジネスの世界に入れば成功間違いなしなのだが、金や名声には全く興味が無いらしく、客船内のしがないバンドのピアニストという地位に満足している。

しかも、最期はダイナマイトで爆破されてしまう廃船と運命を共にして、海の藻屑と消えてしまうという念の入れよう。まあ、世間一般の判断基準からすれば彼の人生は間違いだったということになるのだろうが、ジュゼッペ・トルナトーレは決してこの愚かな主人公を批判しようとはしておらず、何事も無かったかのように静かに作品の幕を閉じる。

まあ、深読みすれば米国流のグローバリズムに対するアンチテーゼということにもなるのだろうが、個人的にはお気に入りである“アメリカ人の億万長者とメキシコ人の漁師が出てくるジョーク”を思い出した。いっそのこと主人公の“天才”という設定も無くしてしまえば良かったと思うのだが、これまで止めてしまうとさすがにストーリーの間が持たなくなってしまうのだろう。

美しい映像であり、エンリオ・モリコーネのBGMも良い雰囲気を醸し出しているのだが、残念なことにたびたび登場する演奏シーンで流れる音楽がイマイチであり、音楽映画として楽しむことが出来ないのが大きな欠点。特に、実在のピアニストであるジェリー・ロール・モートンとのピアノ対決は完全な期待外れであり、早さではなく、感性で勝負して欲しかった。

ということで、生来の怠け者である俺にとって本作の主人公の取った行動は完全に正しいものであり、必要最低限の労働だけで何とか喰っていければそれだけで十分満足。楽をすることを悪と考えるのは欧米のプロテスタントが仕掛けた罠に嵌まっている証拠であり、さっさと競争を止めにしてみんながのんびりと暮らせる社会になれば良いと思います。