大統領の執事の涙

2013年作品
監督 リー・ダニエルズ 出演 フォレスト・ウィテカーオプラ・ウィンフリー
(あらすじ)
アメリカ南部の農園で奴隷同然に育てられたセシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテカー)は、ハウス・ニガー(=下男)やホテルの給仕といった仕事を通して身に付けた白人に仕えるための“作法”が認められ、目出度くホワイトハウスの執事に抜擢される。自分の感情を押し殺し、空気のような存在として忠実に下働きの仕事に徹する彼の姿は、歴代大統領からの信頼を得ていくのだが….


アイゼンハワーからレーガンまで7人のアメリカ合衆国大統領に仕えた黒人執事の半生を描いた作品。

気恥ずかしいほどおセンチな邦題についつい見るのを敬遠していたのだが、一部でなかなかの高評価を得ていることを知り、ようやく鑑賞。監督のリー・ダニエルズは、あの「プレシャス(2009年)」を撮った人であり、おセンチな邦題からは想像つかない人種差別の問題を取り上げた真面目な作品だった。

ホワイトハウスで複数の大統領に仕えるのは別に珍しいことではないのだろうが、その時期がたまたま公民権運動の隆盛期に当たっていたというのが本作のミソ。(当時の黒人としては)恵まれた環境の中で成長したセシルの長男ルイスは、若者らしい正義感から公民権運動にのめり込んでいくのだが、子どもの頃、目の前で父親が白人によって射殺されるのを見たという経験を有するセシルは、ルイスの活動を認めることが出来ない。

まあ、歴史的に見て正しかったのは間違いなくルイスの方なのだが、当時の限られた選択肢の中で、自分と家族の生活を守るために“ハウス・ニガー”の仕事をし続けたセシルの立場もそう簡単には非難できないということで、終盤、執事をやめた彼が数十年ぶりにルイスと和解するシーンもきちんと盛り込まれている。

ちょっと無難すぎるところが難点であるが、ホワイトハウス内での会話やルイスの行動を通して公民権運動の経緯を窺い知ることが出来る等、こういった問題を知るための入門編としては悪くない。明日が命日であるジョン・レノンが“Woman is the Nigger of the World”と歌ってから早40年余、我が国でも決して対岸の火事として済ますことの出来ない問題だろう。

ということで、バラク・オバマが黒人初のアメリカ合衆国大統領に選ばれるところで本作は幕を閉じる。大きすぎる期待に押しつぶされて、近頃、何かと批判されがちなオバマ大統領であるが、こういうシーンを見ると、やはり彼が大統領に選ばれたことの意義は極めて大きいんだなあと改めて思い知らされました。