恋人たちの食卓

1994年作品
監督 アン・リー 出演 ロン・ション、ン・シンリン
(あらすじ)
台北の一流ホテルで料理長を務める老朱(ロン・ション)は、妻と死別してから三人の娘を男手一つで育て上げてきた。しかし、結婚の適齢期を迎えている娘たちにとって初老の父親との生活は既に“負担”となっており、航空会社に勤務する有能なキャリアウーマンである次女の家倩(ン・シンリン)は、新築マンションを購入して家を出て行くと家族の前で宣言する….


アン・リーが台湾時代に撮ったホームドラマの秀作。

邦題はお洒落でロマンチックなラブストーリーを連想させるものだが、原題はもっと即物的なイメージの強い「飲食男女」であり、当然、映画の方もロマンチックな雰囲気とはあまり縁が無い。

ストーリーは、高校教師で男に縁の無い長女の家珍、美人で男にも仕事にも自信たっぷりな次女の家倩、そして大学生で物事をあまり深く考えない三女の家寧の三人娘の恋愛事情を中心に展開していくのだが、まだ幼さの抜けない三女は別として、やはり放っておけないのは“父親の老後は誰が面倒をみるのか”という問題。

ホームドラマということで、小津作品との関係が気になるところであるが、彼の多くの作品では“娘の結婚を心配する父親”というのがメインテーマになっていたことを考えれば、まあ、ちょっとした“隔世の感”は禁じ得ず、見ていて女も強くなったものだなあと感心してしまった。

しかし、逞しくなったのは女性だけに限らないということで、老人である老朱のしたたかさを見せつけた終盤のドンデン返しには吃驚仰天。昔見た「晩春(1949年)」のラストにおける老父の孤独感は今でも俺の心に深く残っているところであるが、まあ、本作のような脳天気な結末も決して悪くない。

ということで、コメディ的な要素も随所に盛り込まれているのだが、一般のアジア映画と異なり、ギャグが洗練されているのが大変好ましく、また、生きている鯉を捌くシーンは写しても、鶏を絞めるシーンは省略するといった辺りの計算も完璧。しかも、この翌年には見事な“英国”映画である「いつか晴れた日に(1995年)」を撮ってしまうのだから、アン・リーの計り知れない才能には脱帽するしかありません。