スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする

2004年作品
監督 デヴィッド・クローネンバーグ 出演 レイフ・ファインズミランダ・リチャードソン
(あらすじ)
長らく精神病院に入院していたデニス・クレッグ(レイフ・ファインズ)は、ウィルキンソン夫人が管理する精神障害者向けのグループホームへ転居してくる。その施設があるロンドンは彼が少年時代を過ごした故郷であり、配管工の父親や彼を“スパイダー”というあだ名で呼んでいた優しい母親(ミランダ・リチャードソン)と暮らした日々を思い返しながら、自らの過去を1冊のノートに記録していく….


最近、個人的に再評価が進んでいるデヴィッド・クローネンバーグの旧作。

デニスの“記憶”によると、粗野な父親は貞淑な妻だけでは満足できず、イヴォンヌというふしだらな娼婦に入れ揚げたあげく、妻を撲殺して彼女を後妻に迎え入れたらしい。しかし、どうしてもこの新しい母親に馴染むことが出来ないデニスは、一計を案じ、ガスを使って彼女を殺害してしまう。

と、まあ、ここまではマザコン少年の不幸な物語になるのだが、実はこの記憶には裏があり、突然の悲劇にうろたえる父親が抱きかかえる遺体の顔を見てみると、それはあの優しかったデニスの母親のもの。要するに、イヴォンヌというのは、デニスが受け入れることを拒否した母親の性的な側面を擬人化した存在であり、彼が殺してしまったのは実の母親だったことが明らかになる。

このオチだけでも十分に衝撃的なのだが、本作の最大ドンデン返しは実はエンドロールの中に隠されており、それは、あの優しくて貞淑な母親役を演じた女優さんと性的なフェロモンの塊のようなイヴォンヌを演じた女優さんが実は同一人物であるということ。このミランダ・リチャードソンという人、名優揃いのハリポ・シリーズで“リータ・スキーター”という魔法界の女性ジャーナリストを演じていた女優さんらしいのだが、本作での変身ぶりはまさに魔法といっても過言では無いだろう。

ということで、男の子に特有なエディプス・コンプレックスといえば“父親殺し”として有名であるが、それに関しては、正直、感覚的に承服しがたい部分が少なくなかった。まあ、無意識レベルの話なので何とも言えないのだが、個人的には本作の“母親殺し”の方によりリアリティを感じるのも事実であり、デニス少年に類似した精神疾患というのは実際に報告されているのでしょうか?