フェイシズ

1968年作品
監督 ジョン・カサヴェテス 出演 ジョン・マーリージーナ・ローランズ
(あらすじ)
会社の重役であるリチャード(ジョン・マーリー)は、友人のフレッドと一緒に立ち寄った酒場で知り合ったジェニー(ジーナ・ローランズ)と意気投合。2人して彼女のアパートに押しかけて、バカ騒ぎの続きを始める。その晩、帰宅したリチャードは、妻のマリアから友人に関する他愛の無い噂話を聞かされ、二人して笑い転げるが、翌朝、彼女に向かって突然離婚を言い渡す….


アメリカの影(1959年)」の9年後に公開されたジョン・カサヴェテスの代表作の一つ。

インディーズ・ムービーのはしりのような作品らしく、物語の主要な舞台となるリチャードとマリアが暮らす家は、セットではなく、カサヴェテス自身の自宅が使われているらしい。そのため、カメラアングルの自由度が低く、まるでホーム・ビデオのような窮屈な構図がしばしば登場するのだが、意外にもこれが新鮮に感じられるのが面白い。

題名のとおり、登場人物の顔の表情のアップが多用されており、これもおそらくカメラアングルの自由度が低いという弱点を補いつつ、映像に変化をもたせるために採用された苦肉の策なんだろうが、それを逆手にとって作品のウリに使ってしまうというカサヴェテス監督のしたたかさにも拍手を送りたい。

また、回想シーンのような“映画的”表現方法をあえて排除しているため、「アメリカの影」と同様、ドキュメンタリー・タッチのスタイリッシュな作品に仕上がっているのだが、これは諸刃の剣であり、上映時間81分の「アメリカの影」ならともかく、倦怠期を迎えた夫婦の込み入った感情を要領よく観客に説明するのにはあまり向いていない。

例えば、本作でもリチャードが突然離婚を言い出した真意(=まさか、ジェニーに一目惚れした訳じゃ無いよね?)やそれに対するマリアの過剰反応の理由(=まさか、あれがリチャードの最初の浮気だった訳じゃ無いよね?)等に関する説明が不足しているため、ストーリー面で少々の不自然さを感じさせる作品になってしまっている。

ということで、本作に登場する人々のコミュニケーションの9割が他愛の無い冗談で占められており、真面目な話題になると人間関係が急速に悪化するというパターンが繰り返し出てくるのがなかなか興味深く、これが当時のハリウッド映画界に対するカサヴェテスの正直な印象だったのかもしれません。