罪と罰 白夜のラスコーリニコフ

1983年作品
監督 アキ・カウリスマキ 出演 マルック・トイッカ、アイノ・セッポ
(あらすじ)
精肉工場で働いているラヒカイネン(マルック・トイッカ)は、仕事が終わった後、ホンカネンという男の後をつけて彼のアパートに入り、戸惑う彼を無言のまま射殺する。ちょうどそのとき、ホンカネンの50歳の誕生パーティの準備のためにケータリング店から派遣されてきたエーヴァ(アイノ・セッポ)が部屋に入ってくるが、彼女は悲鳴を上げることもなくそのまま彼を逃してしまう….


アキ・カウリスマキの初監督作品。

原作がドストエフスキーになっているので、数年前にようやく読み終えたあの古典的小説の映画化に間違いないのだろうが、原作と比較すると、時代設定や場所だけに止まらずストーリーが大きく書き換えられており、正直、言われなければ全く別の作品として鑑賞していた可能性が高い。

殺人の動機にしても、ラヒカイネンのそれは“3年前のひき逃げ事件で恋人を殺されたことの報復”であり、殺されたホンカネンは、裁判では無罪になったものの、その事件の有力な容疑者だったらしい。

まあ、これに関しては、ラスト近くで“俺が殺したかったのは道理なんだ”というラヒカイネンの意味不明な告白があるため、実際の動機はもう少し内面的で複雑なものだった可能性もあるのだが、いずれにしても原作のような金目当てという側面は全く無かったように思われる。

一方、あえて原作との共通点を探すとしたら、それは主人公の孤独感であり、非常に無口で誰にも本音を漏らさないラヒカイネンの鬱屈した日々は、事件を起こす前のラスコーリニコフの日常を思わせる。この孤独感が何に起因するものなのか、最後まで説明は無いのだが、終盤、彼が警察署に自首をするのは、罪悪感からというより、この孤独から逃れたかったからのような気がした。

ということで、重苦しい雰囲気に包まれた面白味の薄い作品であるが、そんな中で唯一の救いになってくれるのが、主人公の友人役に扮したマッティ・ペロンパー。出番も台詞も多くはないものの、彼が登場するとその場を和ませる独特の雰囲気が漂い始めるということで、カウリスマキが後の作品で彼を重用した理由がよく分かるような気がしました。