浮き雲

1996年作品
監督 アキ・カウリスマキ 出演 カティ・オウティネン、カリ・ヴァーナネン
(あらすじ)
レストランの給仕長を務めるイロナ(カティ・オウティネン)は、市電の運転手である夫のラウリ(カリ・ヴァーナネン)との二人暮らし。ある日、ラウリがリストラによって職を失ってしまうと、ほどなくしてイロナの働くレストランも閉鎖されてしまい、二人は職探しに奔走するものの、なかなか見つからない。困ったイロナは、昔の仲間と一緒にレストランを開こうとするのだが….


アキ・カウリスマキが「愛しのタチアナ(1994年)」の2年後に発表した作品。

主人公のイロナは、長年、レストランのウェイトレスとして真面目に働いた結果、給仕長を任せられるまでになった訳であり、女性経営者や職場仲間からの信頼も厚い。しかし、一度その職場を失ってしまうと、彼女がそれまで培ってきた実績や能力を正当に評価してくれるような場所を探し出すのは容易なことではなく、おそらくそれは夫のラウリに関しても同じことなのだろう。

まあ、そんな訳で二人の職探しは困難を極め、イロナがようやく探し当てた安食堂のコック兼ウェイトレスの仕事は、悪徳経営者に騙されて給料も支払ってもらえない始末。職探しに見切りを付けたイロナは、やはり生活に困っている昔の仲間を集めて、自分たちのレストランを開こうとするのだが、ラウリの愛車を売っただけでは開業資金が足りず、銀行に行っても相手にしてもらえない。結局、賭博に手を出してスッカラカンになってしまう。

最後は、偶然再会した昔の女性経営者がスポンサーになってくれたことにより、無事にレストランをオープンすることが出来、一応、ハッピーエンドの形で終わるのだが、まあ、本作のテーマは“禍福はあざなえる縄のごとし”ということであり、あの後、イロナとラウリの夫婦がどうなったのかは誰にも分からない。

イロナを演じているのは、「愛しのタチアナ」にタチアナ役で出ていたカティ・オウティネンという女優さんであり、相変わらず美人ではないが、その存在感と“平凡さ”とが見事にマッチしているあたりが魅力的。他に、ヴァルト役のマト・ヴァルトネンもチラッと顔を見せており、カウリスマキも気心の知れた同じ役者さんを使い回すのがお好きなようである。

ということで、アキ・カウリスマキの作品を二本続けて拝見した訳であるが、その抑制の効いた演出は上等の落語を聴いているようでとても心地よい。次は、もう少し初期の作品を見てみようと思います。