エリジウム

2013年作品
監督 ニール・ブロムカンプ 出演 マット・デイモンジョディ・フォスター
(あらすじ)
2154年。地上では人口増加と環境破壊による荒廃が進んでおり、それを嫌った一握りの超富裕層は上空400kmに浮かぶスペース・コロニー“エリジウム”に移住して豊かな暮らしを送っていた。一方、地上のロボット工場で働くマックス(マット・デイモン)は、事故により致死量の“照射線”を浴びてしまい、その治療を受けるために何とかしてエリジウムへ潜り込もうと奮闘する….


「第9地区(2009年)」で高い評価を受けたニール・ブロムカンプの新作。

世界観的には「第9地区」で描かれた薄汚い近未来と共通する部分もあるのだが、語り口は全くといって良いほど異なっており、どこか脱力的な雰囲気が良い味を醸し出していた「第9地区」に比べ、本作は真面目一辺倒。

いや、最先端科学技術の結晶のようなエリジウムの防御体制を一手に引き受けているのが、実は地球上で暮らしている下卑たオヤジだったり、パソコンみたいに再起動させるだけでエリジウム内のヒエラルキーが簡単にひっくり返ってしまう等、基本設定自体は「第9地区」並みにバカバカしいのだが、ハリウッドの一流スターたちを前にして緊張してしまったのか、ブロムカンプ監督らしい良い意味での脱力感は影を潜めてしまっている。

ストーリー的にも、主人公のマックスがエリジウムに潜入するタイミングがあまりにも遅すぎるし、ようやくたどりついたエリジウム内でのアクションシーンにスペース・コロニーという舞台の特殊性が全く活かされていないのも大きな減点要素。本作を見終わった後、「ゼロ・グラビティ(2013年)」の素晴らしさを改めて認識させられた。

また、わざわざジョディ・フォスターを起用しておきながら、彼女が扮するデラコート防衛長官に何の見せ場も用意していなかったのは、ハリウッド的に相当マズイような気がするのだが、どうだろう。まあ、ブロムカンプ監督はまだ30歳代の若さであり、これからいくらでも名誉回復のチャンスはあると思うのだが。

ということで、ちょっと気になったのはマックスがロボット工場内の事故で放射線を浴びるシーンの字幕に“照射線”の文字が使われていたこと。おそらく福島第一原発事故への配慮なのだろうが、こんなことで福島県民の皆さんをはじめとする関係者の方々に喜んでもらえるとは到底思えず、おかしな前例にならないことを望みます。