1950年作品
監督 ルネ・クレマン 出演 ミシェル・モルガン、ジャン・マレー
(あらすじ)
夫のローランや友人のエレナと一緒にイタリア旅行を楽しんでいたエブリーヌ(ミシェル・モルガン)は、そこで青年レミ(ジャン・マレー)と出会い、束の間の恋に落ちる。スイスのベルンに帰国してからもレミのことが忘れられず、夫に打ち明けようかどうか悩んでいたが、そんなところへレミからの電話が入り、居ても立ってもいられなくなった彼女は、一人で彼の住むパリへと旅立つ….
ルネ・クレマンとしてはちょっと異色な不倫もののメロドラマ。
レミにはマリオンという“遊び相手”がおり、エブリーヌを電話でパリに誘ったのも彼女との冗談の延長みたいなもの。まさか本当に来るとは思っていなかったらしいレミの戸惑いを感じ取ったエブリーヌは、彼に黙ってベルンに帰ろうとするのだが、運悪く列車に乗り遅れてしまう。
一方、エブリーヌを失いそうになってようやく彼女に対する深い愛情に気付いたレミは、何とか駅で彼女をつかまえることに成功し、次の列車が出る午後9時までの間、二人でパリの市内見物に出掛けることになるのだが、このシーンにおける幸せそうな二人の姿は誠に微笑ましい限り。悲劇を予感させつつ、さりげなく幕を閉じるラストもとても良かった。
正直、この時期のルネ・クレマンがこのような通俗的なテーマの作品を撮るというのはかなり意外なことであり、見終わった直後の印象はあまり良いものではなかったのだが、このブログを書くために内容を思い返していると、エブリーヌとレミ以外にも、ローランとエブリーヌ、レミとマリオン、さらにはローランとエレナといった様々な男女の微妙な関係を窺わせるヒントがあちこちに散りばめられており、遅まきながら、なかなか奥の深い脚本であることを確認。エブリーヌよりかなり年上のローランは、信頼出来る立派な人物ではあるものの、彼女の情熱的な恋愛の対象としては些か不向きだったのだろう。
また、レミとの一夜を過ごしたエブリーヌが、翌朝、帰宅してからの出来事を時計の針を動かしながら夢想するというシーンが出てくるのだが、その際に、彼女の想像とはかけ離れた未来の出来事を観客にバラしてしまうという大胆な仕掛けも大変面白く、公開当時37歳のルネ・クレマンの意気込みは十分伝わってきた。
ということで、内容的に、噛めば噛むほど味が出てくるという誠に味わい深い作品。惜しむらくは、もう少しテンポを落として(俺のように感度の鈍い)観客に考える余裕を与えて欲しかったところであるが、まあ、そこは37歳の若気の至りというところなのでしょう。