春の珍事

1949年作品
監督 ロイド・ベーコン 出演 レイ・ミランドジーン・ピータース
(あらすじ)
大学の化学講師バーノン(レイ・ミランド)は、ラジオの野球放送が始まると授業が手に付かなくなる程の大の野球好き。安月給のため、恋人である学長の娘デビー(ジーン・ピータース)になかなかプロポーズ出来ないでいたが、ある日、木を避ける性質を持つ薬品を偶然に発明してしまい、これを野球のボールに塗りつければ、大リーグのピッチャーとして荒稼ぎが出来るのではと思いつく….


ロイド・ベーコンの監督によるアメリカ大リーグを舞台にしたコメディ映画。

バーノンの予想は的中し、投手力に難のあったご贔屓チームに途中入団した彼は、ノーヒットノーランを含む連戦連勝の大活躍でチームを見事ワールドシリーズ優勝に導くのだが、ストーリー上でどうしても気になってしまうのは、彼の活躍が所詮インチキによるものであるにもかかわらず、それに対して何の罰も受けていないこと。

確かに、ワールドシリーズの最終戦、最後のバッターが放った強烈なライナーを素手で捕球した彼は、利き腕を複雑骨折してしまい、これが原因で野球生命を絶たれるという“悲劇”に見舞われるのだが、実は、この時点で既に例の薬品(=偶然の発明品のため、新たに調合することは出来ない。)を使い果たしてしまっているため、来シーズンでの活躍は元々無理。つまり、この事故は今シーズン限りで球界を引退するための良い口実になったと考えるべきであり、全く罰にはなっていない。

しかし、そんな不手際(?)にもかかわらず、本作のハッピーエンドを何となく素直に受け入れられてしまうのは、この主人公のインチキ投手を演じているレイ・ミランドの功績によるところが大きいものと思われ、「失われた週末(1945年)」で新境地を開拓した彼の“一応善人ではあるが庶民的な狡猾さを併せ持つ”キャラクターがこの役柄にピッタリ。

「打撃王(1942年)」のゲイリー・クーパーでは、ラストで自分の行ったインチキをあらいざらい告白してしまいそうだし、「甦る熱球(1949年)」の ジェームズ・スチュワートなら、そもそもこのようなインチキを実行に移そうとは思いもしなかっただろう。

ということで、子供の頃にTV放映されたのを見たようなかすかな記憶が残っており、とても懐かしい気持ちで鑑賞。今のコメディ作品に比べると随分おとなしく、また、決して映画史に残るような作品でもないのだが、たまにはこういった作品を見るのも悪くないと思いました。