水の中のナイフ

1962年作品
監督 ロマン・ポランスキー 出演 レオン・ニェムチック、ヨランタ・ウメッカ
(あらすじ)
アンジェイ(レオン・ニェムチック)とクリスティーナ(ヨランタ・ウメッカ)の夫婦は、いつものように週末を自家用ヨットの上で過ごすため湖畔に向かって車を走らせる。その途中、ヒッチハイクの青年を拾ったアンジェイは、彼の若者らしい反抗的な態度に興味を抱き、独断でヨットに同乗させることを決定。慣れない舟遊びにイラつく青年を夫婦でからかいながら一夜を過ごす….


ロマン・ポランスキーが29歳のときにポーランドで撮った初の長編作品。

物語の舞台となるのは60年代前半のポーランドであり、そこで自家用車ばかりか自家用ヨットまで所有しているアンジェイはかなりのエリート階級に属する人間と思われる。事実、妻のクリスティーナ(=夫よりも随分年下らしい。)に対する態度も相当傲慢であり、ヒッチハイクの青年(=最後まで名前は明かされない。)を車やヨットに乗せるときも彼女の意見を聞こうともしない。

そんな二人の夫婦仲はというと、当然、あまり上手くいっておらず、クリスティーナの夫に対する従順さは尊敬を伴わないうわべだけのもののようであり、アンジェイもそれに気付いている。彼が青年をヨットに乗せた最大の理由は、青年を生贄にすることによって、妻に自分の強さを(改めて)誇示したかったからなのだろう。

そして、その青年が肌身離さず持ち歩いているのが一本の飛出しナイフであり、これは彼の若者らしい“反抗心”の象徴。結局、このナイフを巡るトラブルによって自らの弱さを露呈してしまったアンジェイは、それを非難する妻の声に耐え切れずにヨットから逃げ出してしまうのだが、題名の“水の中のナイフ”というのは、クリスティーナが長年心の奥に秘めていた夫に対する反抗心(=これを当時の社会体制に対する民衆の不満と深読みすることも可能)のことなのだろう。

まあ、そんな彼女も、結局、夫と完全に手を切ることは出来ないのだが、夫を、“自分が青年を殺したこと”or“妻が青年と浮気したこと”のいずれか一方を信じなくてはならない状況に追い込んでしまうラストがなかなか面白く、今後の夫婦生活における力関係の変化は避けられないところだろう。

ということで、登場人物が3人だけという超低予算映画なのだが、シャープな映像と良く練られた脚本のおかげでとても面白い作品に仕上がっている。それにしても、このような作品を29歳で撮ってしまうポランスキーの才能は、まさに驚異的というしかありません。