そして父になる

今日は、(一週間遅れで)妻と一緒に「そして父になる」を見に行ってきた。

俺自身、別に是枝裕和監督のファンという訳ではなく、彼の作品は「花よりもなほ(2006年)」と「空気人形(2009年)」くらいしか見たことが無いのだが、本作が審査員賞に輝いたカンヌ国際映画祭で審査委員長を務めていたスティーブン・スピルバーグが絶賛しているという話を耳にして俄かに興味が湧いてきた。主演が福山雅治なら妻も反対しないだろう。

さて、本作のテーマが“子供の取違え”であることはCM等のおかげで見る前から十分承知しており、三流メロドラマをはじめ、これまで多くの作品が取り上げてきたこのテーマに、是枝監督がどんな新機軸を持ち込んだのかという一点に集中して見ていたのだが、“交換じゃなくて、子供を二人とも引き取ってしまう作戦”は一向に進捗せず、“取違えは嫉妬に狂った看護師の故意”というエピソードもさほどの展開を見せないまま、映画は“生みの親より育ての親”という至極真っ当なエンディングを迎えてしまう。

正直、見終わったときはちょっと肩透かしを食らったような気がしたのだが、おそらく本作のミソはこの“凡庸さ(=ニュートラルな状況)”にあるのであり、児童虐待や極端な所得格差といったような様々な“混同要因”をシャットアウトした後に残る父と子との純粋な関係を描くことが本作の狙いであったような気がしてきた。

そして、この“凡庸さ”を醸し出すために、子供の年齢をようやく物心が付きはじめる微妙な年頃に設定したり、生みの親も育ての親も全員ほどほどの善人ばかりにするといった細心の注意が払われており、まあ、現実的に考えてみればこの状況は決して凡庸なことではなかったのだろう。

ということで、本作はドリームワークスによってリメイクされることが決定しているらしいが、刺激的であることを重要視するハリウッドにおいて本作の“凡庸さ”が維持できるのか大いに疑問。でも、普通の家庭を描くことが苦手なスピルバーグ自らが監督してくれるのなら、(怖いもの見たさで?)映画館に見に行っても良いと思います。