奇蹟は一度しか起こらない

1950年作品
監督 イヴ・アレグレ 出演 ジャン・マレーアリダ・ヴァリ
(あらすじ)
1939年7月のパリ。医学生のジェロームジャン・マレー)は、夏休みのためにイタリアへ帰ろうとしていた留学生のクラウディア(アリダ・ヴァリ)のアパートを訪ね、彼女への想いを打ち明ける。数週間後、アルバイトで旅費を工面したジェロームはクラウディアの後を追ってイタリアに渡り、フィレンツェ郊外のホテルで夢のような幸せな日々を送るが、そんな二人に戦争の知らせが….


アリダ・ヴァリが「第三の男(1949年)」の翌年に主演した作品。

内気な苦学生のジェロームは、クラウディアへの想いをなかなか口に出せないまま胸の奥に仕舞っておいたのだが、今日中に打ち明けないと彼女は何も知らないままイタリアへ帰ってしまうということで、意を決して彼女のアパートを訪れる。一方のクラウディアもキスに慣れていないという典型的なおぼこ娘であるが、実は以前からジェロームに憧れていたということで、二人はアッという間に相思相愛の恋人同士になってしまう。

この二人を、公開当時37歳のジャン・マレーと、同じく29歳のアリダ・ヴァリが演じているのだが、さすがに前者が演じるジェロームには相当の無理があり、ほとんど初対面のクラウディアの前で彼が若者らしい虚勢を張るというシーンが出てくるのだが、これが虚勢ではなく、本物の傲慢のように見えてしまう。

しかし、結婚を誓い合った二人の仲が戦争によって引き裂かれてしまうと、瞬く間に11年の歳月が流れ去り、再会を果たしたときのジェロームとクラウディアの推定年齢はともに30歳過ぎということで、年齢的な違和感が見事に解消しているのが面白い。

事実、“奇蹟は一度しか起こらない”という本作のテーマが明らかになるのもこの再会後のことであり、二人は再びフィレンツェ郊外のホテルを訪れるのだが、お互いに相手に求めるのは11年前のイメージであり、あの夢のような日々は二度と戻らないことを思い知らされる。しかし、一人で出て行こうとするクラウディアをジェロームが思いとどまらせるラストは見事であり、“奇蹟”に頼ることなく、自分たちの努力によってお互いを理解しようという気持ちが十分に伝わってきた。

ということで、アリダ・ヴァリという女優さんはルックス的にはあまり好みではないのだが、「第三の男」における強烈なイメージをはじめどこか気になる存在。もう一つの代表作である「夏の嵐(1954年)」も再見したいと思っているのだが、DVDが高価なのでなかなかその機会がありません。