ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

2012年作品
監督 アン・リー 出演 スラージ・シャルマ、イルファン・カーン
(あらすじ)
ネタ探しをしているというカナダ人の小説家から話をせがまれたインド人のパイ・パテル(イルファン・カーン)は、自分が少年の頃に体験した驚異の冒険譚を語り始める。子どもの頃、彼はインドのボンディシェリで動物園を営む両親と幸せな生活を送っていたが、16歳になったとき、家族でカナダに移住することになる。しかし、両親や動物たちを乗せた日本の貨物船は航海の途中で嵐に遭遇し、沈没….


昨年のアカデミー賞で監督賞に輝いたファンタジー作品を妻と一緒に鑑賞。

運良く救命ボートに乗り移ることができたパイ少年(スラージ・シャルマ)であったが、その狭いボートの中には、彼の他にシマウマやハイエナ、オランウータン、そしてリチャード・パーカーと呼ばれていた凶暴なベンガルトラが同乗していた。

しかし、その後は弱肉強食の摂理に従って、まず、シマウマとオランウータンがハイエナの餌食になり、そのハイエナをトラが片付けるということで、ほどなくサブタイトルにもあるようなパイ少年とトラの二人旅が始まる。本作の予告編を見たとき、この設定でどうやって話を繋げていくのか見当もつかなかったのだが、“トラと少年の友情”みたいな安易な展開にしなかったのは大したものであり、パイ少年のコミカルな一人芝居と幻想的な映像とできちんと最後まで楽しませてくれる。

少々意外だったのは、“サバイバル”の部分をあまり真剣に描こうとしていないところであり、トラはパイ少年の捕食に熱心とはいえず、また、食料や飲料水を確保するために努力するようなシーンもほとんど登場しない。したがって、全体を通して緊迫感はむしろ希薄であり、インド映画のような不思議な安らぎに包まれた作品になっているのが面白い。

なお、最後の方で実にあっさりとした種明かしがあり、これを余計と考える観客も少なくないと思うのだが、個人的には、つかみどころのないファンタジーに重みと奥行きを持たせるための見事なアイデアだと考えており、それを前提にして全体を振り返ってみると、単純と思われたシーンにもいろいろな解釈が出来るようになっている。

ということで、家族との調整が付かず、映画館での鑑賞がかなわなかった作品であるが、3Dの大画面で見たらさぞかし美しかったであろうと思われるシーンも少なくなく、ちょっとだけ後悔。いつかこの作品が映画館で再上映されるような機会は来るのでしょうか。