汚れた血

1986年作品
監督 レオス・カラックス 出演 ドニ・ラヴァンジュリエット・ビノシュ
(あらすじ)
友人ジャンが地下鉄事故で不慮の死を遂げたことを知ったマルクは、借金の返済を怠った彼が“アメリカ女”によって見せしめのために殺害されたのだと思い込む。彼女から莫大な額の借金の返済を迫られたマルクは、その資金を手に入れるため、若者に蔓延する奇病“STBO”の特効薬を開発したらしい製薬会社の襲撃を計画し、ジャンの息子アレックス(ドニ・ラヴァン)を仲間に加える….


レオス・カラックス監督の初カラー長編作品であり、「アレックス三部作」の第二作目。

“STBO”というのは、愛の無いセックスを媒介にして若者に伝染する架空の病気であり、ストーリー性に乏しかった他の2作品からは全く想像できないような、“近未来SF+犯罪物”というサービス満点の設定にいきなり意表を突かれてしまう。

しかし、そこにマルクの年若な愛人アンナ(ジュリエット・ビノシュ)が登場すると、ストーリーはいつもの“恋愛物”の方向へ急旋回してしまい、襲撃計画はそっちのけで、彼女に対するアレックス君のせつない片想いの様子が延々と描かれる。結局、最終的には襲撃計画も実行に移されるのだが、攻める犯罪者側も、守る警察側も手際はグダグダであり、見終わってから、本作を“近未来SF+犯罪物”のジャンルに分類しようとする人はおそらく皆無だろう。

まあ、そんな訳でストーリー的には少々期待ハズレなのだが、そのへんの不満を補って余りあるのが、今から30年近くも前の作品とは思えない映像表現の素晴らしさ。「ポンヌフの恋人(1991年)」のような大規模な仕掛けは無いものの、自由自在なテンポ感と赤と黒が印象的な色彩に支配された映像はとてもオシャレであり、俺のようなオジサンにも十分伝わってくるものがあった。

また、アンナ役のジュリエット・ビノシュの可愛らしさも本作の大きな魅力であり、繰り返しマルクに対する揺るぎない愛を口にしながらも、アレックス君と楽しそうにジャレ合う姿は、天使と小悪魔の境界線上で絶妙のバランスを保っており、まあ、これが恋愛物パートの比重が重くなりすぎた原因なのかもしれない。

ということで、主人公のアレックス君はラストで死んでしまい、名前は同じでも「ポンヌフの恋人」の主人公とは別人であったことが判明。しかし、口から火を吹く特技があることだけでなく、性格的な共通点も多く、まあ、キャラクター的には同じと考えて良いのでしょう。