ブリューゲルの動く絵

2011年作品
監督 レフ・マイェフスキ 出演 ルトガー・ハウアーシャーロット・ランプリング
(あらすじ)
16世紀のフランドル地方。人々は美しい自然に囲まれた田園地帯で静かな暮らしを送っていたが、その一方、支配者であるスペイン王の送り込んだ傭兵によって、プロテスタントの住民に対する残酷な弾圧が横行していた。画家のブリューゲルルトガー・ハウアー)は、そんなフランドル地方に十字架を背負わされたキリストを登場させ、ゴルゴダの丘の悲劇を再現しようとする….


フランドル絵画の巨匠ブリューゲルの「十字架を担うキリスト」を題材にした作品。

セリフらしいセリフを話すのが、ブリューゲルとその友人の銀行家ヨンゲリンク、それにちょっと歳の行った聖母マリアシャーロット・ランプリング)の三人だけということで、言葉による情報量は極めて限られており、観客がゴルゴダの丘の再現がテーマになっていることを理解できるようになるのは、映画の中盤を過ぎてから。

ブリューゲルの「十字架を担うキリスト」という作品の存在を知っていれば、もっと早い段階で気付いたのだろうが、俺が彼の名前を聞いて思い浮かぶ作品は「バベルの塔」くらいのものであり、そもそも映画を見るときには出来るだけその作品に関する事前情報をシャットアウトしようとする主義なので、正直、序盤は何を描こうとしているのかほとんど理解できない状態で見ていた。

しかし、この作品に限って言えば、「十字架を担うキリスト」という作品の存在だけでなく、それが描かれた時代背景まであらかじめ理解しておいた方が、本作をより深く楽しめるのはまず間違いのないところあり、事実、所々早送りしながら見直した2回目の方が圧倒的に面白かった。

まあ、本作の面白さの半分以上は、自分の生きている時代の悲惨な出来事にゴルゴダの丘のイメージを重ねようとしたブリューゲルのアイデアに負っているのかもしれないが、あまりハイテクに走り過ぎることも無く、一枚の絵を映画化するという難事業に節度を持って取り組んだレフ・マイェフスキという監督さんの心意気は十分評価に値するものであり、是非、別の絵画にも挑戦していただきたいと思う。

ということで、改めて「十字架を担うキリスト」という作品を眺めてみると、悲惨なテーマとメルヘンチックな雰囲気が同居したなかなか味わい深い作品。本物はウィーンの美術史美術館で「バベルの塔」の隣に展示されているとのことであり、いつの日か現物を拝見してみたいものです。